第43話 黒ギャルと白ギャル

 ララの流星雨メテオレインで飛来した無数の隕石が落下する。超高速で破壊力を増した隕石は、木々を薙ぎ倒し岩を破壊し凄まじい音と共に土煙を巻き上げてゆく。


 直撃を受けたニーズヘッグも無事ではいられず、ドラゴンの強力な防御フィールドを貫通して蛇のような肉体にダメージを与えている。


 ヒュゥゥゥゥーッ! ドドドーン! ドドドドーン! ドドドド-ン!


「きゃああああぁーーーーっ! もうヤダぁぁ~っ! なんなのぉ! あーしばっかりぃ~っ!」


 さすがの魔王の一角であるニーズヘッグも悲鳴を上げる。敵であり巨大な竜なのに、ちょっと可哀想に思えてしまう。


「わ、我の、今のところ最強の範囲攻撃魔法。これならば多少狙いがズレても当たるはず」


 ララが言っているように、確かに広範囲魔法ならば当たるはずだ。ただ、当たってほしくない場所にまで当たりそうなのが怖い。


 ドドドーン! ドドドーン! ズガァァァァーン!


 ララの魔法なのに意外と命中率が高いかのと感心していたら、後半は狙いが逸れて遠く離れた場所に落ちたようだ。山の向こう側で何かが破壊されたような音がする。


「もぉぉぉぉぉぉ~っ!!」

 ズシャァァァァーーーーッ!


 その時、暴走したように空中を飛び回ったニーズヘッグが俺目掛けて突進する。


「なっ、ヤバっ!」


 グサッァァーッ!

「ぐあああああっ!!」


 突然のことで避けるのが遅れた俺は、彼女のツノで串刺しにされてしまった。


「おい、ジェイド!」


 ライデンの声が届く前に、ツノに刺さった俺はニーズヘッグと共に上空に昇ってゆく。


「きゃああああっ! ジェイドさん!」

「ジェイドぉぉぉぉーっ!」


 ミウとララの声が急速に遠ざかる。俺の腹に大穴が開いて、ニーズヘッグのツノに引っ掛かったまま上昇しているのだ。


「ぐはぁっ! マズい……意識が……」


 俺の意識が遠くなりそうになった時、ニーズヘッグのドラゴン化が解け人型に戻る。もちろん空中で戻ったために、俺は数百メートル上空から落下した。地面目掛けて真っ逆さまだ。


 ヒュゥゥゥゥーッ! ドスーンッ! グチャ!


 ペチャンコに潰れた俺を他所に、空中から降下したニーズヘッグは泣きながら文句を言う。


「もぉぉ~っ、なんでよぉ。あーし、何もしてないのに。森で暴れてる人族がいるから止めに来ただけだしぃ」


 確かに言われてみれば彼女は悪くない。一方的に進軍してニヴルヘイムの領土に入った挙句、大暴れしているは人族の方だ。何だか俺達が悪者みたいに見える。


 そんな俺の考えなど知りもしないライデンが、ニーズヘッグにトドメを刺そうと刀を振り上げた。


「トドメだ、魔王よ!」

「きゃああああーっ!」


 ズシャァァーッ!

「ま、待て、ライデン!」


 ニーズヘッグに刀が届く寸前に、俺が間に入って止めた。


「おい、何のつもりだ。そいつは敵だぞ」


 ライデンが言う通りなのだが、なぜか俺は止めてしまった。これが最初からドラゴンの姿だったら違ったのだろうか。ギャル姿を見ているから親近感が湧いたのかもしれない。


 いや違う。ハッキリとは言えないが、何か予感めいたものがあるのだ。この世界の危機を救うには、人族だけではなく、竜族や魔族やエルフ族など、違う種族も仲間にしなければという予感だ。


 なぜ、俺がそう思ったのかは謎だが。



「あんた、あーしを守ってくれるの……」

 つぶやいたニーズヘッグの方へ振り向く。


「俺の話を聞いて欲しい」

 

「うわっ、キモっ! 腹に穴が開いてるし。色々グチャグチャだし。ぞ、ゾンビ?」


「ゾンビじゃねーよ!!」


 ツノで突き刺されたり落下の衝撃でペチャンコになったりでボロボロの状態だ。確かにゾンビみたいだろう。

 しかし、これだけのダメージを負っても体は再生し立ち上がることも可能だ。俺の固有スキル【暗黒神】の自己再生能力も格段に上がっている。


「えっ、なにこれ? 再生能力? あんた魔族なの?」

「いや、一応人族なんだけど」

「へぇ~ほぉ~ふぅ~ん……」


 ニーズヘッグがジロジロと俺の体を見る。見た目がギャルなので緊張してしまう。現実世界でもそうだった。なぜかギャルに近寄られると緊張するオタク体質なのだ。


「もしかしてあんた、あーしのコト好きなの?」

「は?」


 突然好きとか言われて困惑する俺。ニーズヘッグが勘違いしているようだ。


「そうよね。いきなりキスするし」

「不可抗力だ」

「体を張って助けてくれたし」

「いや、敵対しないで済むのならそうしたい」

「なんかぁ、あーしを見る目がエロし」

「え、エロくねえよ」


 ちょっとだけエロい目で見てしまったのは内緒だ。ネットで見た90年代ギャルブームを彷彿とするファッションで、ついジロジロ見てしまったのはある。


「ジェイドさん、やっぱりエッチな目で……」


 エッチという言葉に反応する、いつものミウだ。エッチエッチ言っているミウが一番エッチな気がするのだが。


「ジェイド、また新しい女を……わ、我は一生付いて行くと言ったはずだぞ」


 ララまで変な雰囲気になっている。怒るとヤンデレっぽいオーラを出すのが怖いところだ。


「おい、ジェイド、結局この魔王はどうするのだ。トドメを刺すのならば今だぞ」


 ライデンは刀を構えたままだ。まだ戦闘は終わっていないと一瞬も気を抜いていない。


「待ってくれライデン、この子の話も聞いてみたい。敵といっても協力できるかもしれないだろ」


「なにっ、魔族と協力だと……」


 やたら正義感の強いランデンとしては、敵である魔族と協力など考えていないスタンスのようだ。


「でも、俺とライデンも最初は敵同士だっただろ」

「それは…………」


 俺の言葉でライデンが沈黙した。



 俺達が揉めていると、ニーズヘッグは不本意そうな顔をする。


「ふんっ、あーしが人族と協力なんてするわけないっしょ。で、でも……あんたがどうしてもって言うなら、きょ、強力してあげても良いんだけどね」


 何だこの魔王、ツンデレっぽいことを言い出したぞ。



 ドドドドドドドォォォォォォーン!


 その時、ララの流星雨メテオレインの流れ弾が落ちた山の向こう側から轟音がした。


「な、何だ!?」


 皆で一斉に音のする方を見ると、山の向こうに天空に向け飛翔する巨大なドラゴンの姿があった。


「お、おい、ドラゴンがもう一頭いるぞ!」

 ライデンが空を指差した。


「は? またドラゴンだと……」


 空高く浮かんだドラゴンは向きをこちらに変え、猛スピードで突進してくる。


 そのドラゴンは蛇のような形のニーズヘッグと違い、ファンタジーやゲームに登場するドラゴンそのままの形をしていた。白く硬そうな鱗を輝かせ、巨大な翼を広げて飛翔している。


「これって、もしかしてもう一人の竜王であるファフニールなのでは」


「そうだけど。あいつがファフニールだし」


 ニーズヘッグが俺の疑問に答えてくれた。


 おいおいおいおい、マズいぞ。どうにかニーズヘッグと話ができる状態になったのに、また新たな魔王が登場とか。魔王の大安売りかよ。



 ズザアアアアァァァァーーッ!

 バサァッ! バサァッ!


 驚くべきスピードで俺達のところまで到達すると、上空を旋回してから眩い光を放つ。そのままニーズヘッグと同じように人型に変化すると、華麗なステップで地面に降り立った。


「ちょっとっ! 何してくれてんのよっ! うちのワルキューレ1/8フィギュアのブリュンヒルデと、1/700超巨大機動戦艦ナグルファルの精密模型が壊れちゃったんですけど!」


 竜王ファフニールが言い放った言葉は、オタクにだけ響くような意外な内容だった。一瞬、耳を疑うくらいに。勘違いしているのか、俺達ではなくニーズヘッグに食って掛かってしまう。


 その少女はギャルだった。言動からオタク女なのかっと思うところだが、見た目は完璧にギャルだ。


 90年代を彷彿とさせるニーズヘッグと違い、こちらは最近のファッションセンスのように見える。目鼻立ちがぱっちりとし、長いまつ毛にキラキラした雰囲気。柔らかそうな髪はピンク色に見えるゴールドで、サラサラと肩に流れて毛先が緩くカールしている。


 俺達そっちのけで、ニーズヘッグ黒ギャルファフニール白ギャルの様相をていしてきた。

 

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