第16話 親睦を深める温泉イベント

 耳をつんざくような爆発音と地響きがとどろく。テンションアゲアゲのポンコツ娘達が魔法を連発しているのだ。


 ドドドドドドーン! ズガガガガガーン! ドォォーン! ビィィィィィィィィーッ! ドドドーン! ドカーン!


「あああっ、森が……」

「母なる大地が破壊されているです」


 俺とミーニャが並んで、その光景を茫然ぼうぜんと見つめて呟く。この暴走美少女達を止める術が無い。


「ジェイドさん、私、頑張ってます。後で褒めてくださいねっ」

 満面の笑顔のミウが顔だけ俺の方に向けて言う。


「ジェ、ジェイド、わ、我はやるぞっ! どうだ、我は役に立つだろう」

 負けじとララも、俺の方を向いて言った。


「あ、ああ……エライエライ……」


 とりあえず棒読みな感じで褒めておく。

 ミウとララが、俺に良いところを見せようと張り合ってしまっているようだ。落ち込んでいるのを元気づけようとしたら、こんな状態になってしまった。


 もう一度同じように陣形を組んだのだが、やっぱり俺に向けて攻撃魔法が飛んでくるのだ。もう、陣形はやめて今は皆で横に並んで戦っている。


 ――――――――――――

 レベル26になりました。

 スキル

 【剣術】【思考加速】【罠解除】入手!

 アイテム

 【オーガの剣】【オークの斧】入手!

 ――――――――――――


「あっ、剣術スキルを覚えた。俺って魔法剣士なんだろうか?」


 二人が頑張ってモンスターを倒しまくっているので、経験値がパーティーメンバーに配分され、何もしなくても勝手にレベルが上がってゆく。


 想像していたMMORPGのパーティープレイとちょっと違う。皆で連携を取りながら協力プレイだと思っていたら、見た目だけは超可愛いのに戦闘になるとポンコツで暴走気味なメンバーとハチャメチャプレイだ。


 どうしてこうなった…………。


 ◆ ◇ ◆




 レベル上げも一段落し、モンスターの多い山奥からふもとまで戻ってきた。


「レベルも上がったしゴールドも貯まったから、明日は別の街に行ってみるのも良いかもしれないな。この世界を探検してみるのも面白そうだ」


「良いですね。楽しそうです」

「くくっ、そなたとならばどこまでも行こうぞ」

「にゃにゃっ、ミーニャも付いて行くです」


 俺の言葉に皆も賛同してくれる。一緒に旅に出る仲間がいると思うとちょっと嬉しい。


「しかし、さすがに今日は疲れたな。途中、死にかけたし……」


「温泉とか入りたい気分ですよね」


 俺のセリフを華麗にスルーして、ミウがゆっくり温泉に浸かっている気分にでもなった顔をしている。


「そうだな。温泉に入りたい気分だ」


 一瞬、ミウの入浴姿を想像してしまった。服の上からでも分かる大きく張りのある胸に目が行ってしまう。あのドスケベボディを毎晩押し付けられているのだからたまらない。


「あるです。温泉」

 不意にミーニャがつぶやく。


「えっ、あるの?」


「ここから少し北に行ったところのズンガ渓谷に穴場の温泉があるです。行きたければ案内するです」


「ほんと! 行きたい行きたい」

「良いですね。行きましょう」

「くへっ、皆で温泉……夢が膨らむの」


 俺に続いてミウとララも行きたがっている。この世界に来てからは、宿屋に併設された簡易的な風呂に入っているだけだ。王都にでも行けば、もっと快適な風呂があるのだろうが、名前も知らん始まりの街ではこんなものだろう。


 ゲーム世界と同じと言っても感覚的には現実である。やはり、ゆっくりと温泉にでも入りたい気分なのだ。


 俺はあまり深く考えずに、皆と一緒に温泉へと向かった。


 ◆ ◇ ◆




「ここです」


 ミーニャの指差した方向に湯気が立ち上る岩場が見える。間違いなく元の世界に存在するのと同じ温泉だ。


「おおっ、本当に温泉だ。じゃあ、俺は後で良いから皆で先に入ってきなよ」


 ミウ達を先に入らせようとする。

 俺は紳士なので決して覗いたりはしないぞ。先に入らせておいて、こっそりミウの巨乳や、ララの綺麗な脚や尻とか、ミーニャの小さな体を観ようなんて思ってもいない。本当だぞ。


「我はジェイドと一緒に入る。ミウとミーニャが先に入るが良い」


 ドヤ顔になったララが、訳の分からんことを言い放つ。一瞬で空気が凍り付き、ミウの顔に『ピキッ』っと青筋が立ち、俺はエロい妄想を見透かされた気になって動揺した。


「はあああっ!? な、なに言ってんだララ」


「くふふっ、ジェイドよ。もう離れないと言ったはずだぞっ。思いっ切りお世話になってやる。覚悟しろ」


 くふくふと変な笑みを浮かべたララが、妖しい流し目になって俺に話しかける。その姿はエロいというより怖いが正しい気がする。


「だ、だ、ダメに決まってるじゃないですか! ララさん、そんなハレンチなのは認めません」


 真っ赤な顔でプルプルしているミウが早口でまくし立てる。エッチ禁止と言わんばかりに。


「そのドスケベボディを毎晩ジェイドに押し当てて眠るハレンチ娘のミウには言われたくないな」


「なっ! ハ、ハレンチじゃありません! 寝相が悪いだけです」


「どうかな? その揺れる大きな乳やプリプリしたエロい尻なんて、どうみても淫乱そのものよ。おおかた、毎日のように悶々もんもんとして溜まりに溜まった性欲を、こっそりジェイドの体を使って解消しているのだろ。このドスケベ娘!」


「ち、違います! ドスケベじゃないです! そ、それは、少しはエッチな気分になっちゃう時もあるけど……って、なに言わせてるんですかぁ~っ!」


 二人がケンカを始めてしまった。どっちがよりスケベかでモメているようだ。


「あああ……パーティー結成初日にして崩壊の危機に……俺のパーティープレイ終わった……」


 嘆く俺の横にミーニャが来て言った。

「御主人、すぐ止めるです」


「えっ、どうやって?」


「まったく。女心が分かっていない鈍感御主人に教えてやるです。ここは皆で一緒に温泉に入ろうと言えば解決です」


「そんな訳ないだろ。それじゃ俺がドスケベみたいじゃないか」


 俺の反論に、ミーニャが「ふうっ」と溜め息をついてから話し始める。


「御主人、パーティーに女を入れるのなら平等に扱わないとダメです。どちらかの肩を持てば、自ずともう一方が不満を溜めてしまうのです。ここは御主人がドスケベになって二人を仲直りさせるのです、それが真の男です」


「そ、そうかっ! それでこそ真の男か。俺はやるぜっ!」


「御主人がバカで良かったです(ぼそっ)」

「何か言った?」

「いえ、なにも」


 俺はミーニャに言われるがままに二人の仲裁に入った。もちろん真の男になるために。


「まて、二人共。ケンカはやめるんだ。ここは皆で一緒に入ろうじゃないか」


「な、なにっ、全員でだとっ! ハーレム狙いか、貴様っ!」

「は、はわわっ、ジェイドさん、なに言ってるんですか! エッチ! スケベ! ヘンタイ!」


 おい、ボロカスに言われてるじゃねーか。どこが真の男だよ。騙された気分だぜ。


「ま、まあ、そなたが我と一緒に入りたいのは理解した。よかろう。一緒に入ろうぞジェイドよ! あっ、ミウは入らないみたいだから二人でも良いぞ」


「ままま、待ってくださいっ! 私も入ります。ふ、二人きりなんかにしたら、ジェイドさんエッチしちゃうじゃないですか。エッチ禁止ですっ」


 結局、全員で入ることになってしまう。ミーニャの読み通りだった。


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