第12話 ポンコツ美少女に挟まれる地獄の一夜

 酒場を出た頃には辺りは暗くなっていた。俺がミウとミーニャを連れて歩いていると、少し後ろを歩くララから変なオーラが出ているのに気付く。


 ゾゾゾゾゾゾゾゾっ――――


「あの、さっきから何なの?」


 俺は背後に立つララに声をかけた。


「そ、そのっ……ネコミミ少女を奴隷にして、何をしているのかと思ってだな……ふっ、ふふっ」


 ララがボソボソと変なことをつぶやいている。本当に見た目だけは超美人なのに、言いようのないキモさを醸し出している残念美人だ。


「いや、それは――」

「ただの奴隷契約じゃないです。淫紋を刻まれたエッチ奴隷です」


 俺が説明するより早く、ミーニャが問題発言をしてしまった。


「ややや、やっぱり……ふっ、ふひっ…………い、淫紋とはゲスいことを……毎晩、強制的に発情させて……あんなことやこんなことを……」


 ララがフヒッている。


「御主人はヘンタイさんです」

「ななっ、ヘ・ン・タ・イ・だ……と」


 ミーニャに色々吹き込まれてララのヤバさが増してしまった。もう、誰かこの娘を止めて欲しい。


「ジェ、ジェイドよ、こんな小さな子をエッチ奴隷になど……だ、ダメじゃないか……ま、まさか、ドS魔王マーラ様のように、次々と女を虜にし、ドS調教を……くっ、くふっ、良いなっ、調教! くくっ、くふっ……」


(くっ、ララめ……やっぱりヤバい女だったか。しゃべらなければ超美人なのに。魔王マーラ様って、どこかで聞いたような? そんなラノベがあったよな)


「冗談言ってないで行くぞ。ララは宿屋をとってあるのか?」


「ふっ、わ、我は野宿だ……」


「はあ? 野宿って、そんな若い女が野宿なんかしたら危ないだろ」


「ふっ、昨夜も暴漢に襲われそうになったり、どこかに連れ去られそうになったり、ど、どうして男たちは我を襲うのだろうな……」


 ララがとんでもないことを言い出した。


(どうしてって……そりゃ可愛いからだろ。こいつは自分が超美人で可愛い顔をしているのに気付いてないのか? 何だか自己肯定感も低そうに見えるし。ララを一人にしておくのは心配だな)


「ララ、俺たちの泊っている宿屋に来いよ。野宿よりはマシだろ」


「そうですよ。女の子が野宿なんて危険です」


 俺がララを誘うと、ミウも心配して賛同してれる。奴隷狩りがいるような世界で、若い女性が野宿は危険過ぎるだろう。


「うっ、ううっ……わ、我もそのミーニャと同じようにエッチ奴隷にするつもりか。ふっ、それも良いだろう。さあっ! 我の肌に淫紋を刻み、鬼畜な命令をするが良――んんっ、うぐっ」


「声がデカい」


 急にララが大声で変態発言をしたので口を塞ぐ。後ろから腕を回し羽交はがい絞めだ。ドMっぽいので少し雑に扱っても大丈夫だろう。


「うがぁっ、こ、こらっ、ちょっと乱暴だぞ。だ、だが、そんな強引なのも良いものだがな……ふっ、ふひっ」


(何だか、このちょっとキモい感じがクセになって可愛く思えてきた。見た目の美少女感と変な性格とのギャップが凄いぜ)


 ジィィィィ――――


 ふと視線を感じて顔を上げると、ミウがプク顔になってにらんでいる。


「えっと、ミウ。やっぱり怒ってる?」

「べつにぃ、怒ってませんよぉ……」


 やっぱり怒っているように見える。



 ガヤガヤガヤ――


 ララとミウに構っていると、今度はミーニャが怪しい男たちに絡まれていた。


「おい、こんな所に獣人族の女がいるぞ」

「ぐへへっ、玩具にするには丁度いいな」


 ゲスい笑みを浮かべた男たちがミーニャに手を伸ばした。


「おい、待て! そいつは俺の連れだ」


 俺はミーニャを守るように止めに入った。俺の声で、男たちがミーニャの首の奴隷紋に気付いたようだ。


「おい、この女、首に奴隷紋があるじゃねーか」

「何だよ、もうあんたの所有物かよ」

「悪かったなニイチャン。あんたの持ち物とは気付かず」


 奴隷紋に気付いた男たちは、あっさりと引き下がる。

 きっと奴らの話しぶりからして、誰かの奴隷に手を出したら罪に問われるのだろう。


「ミーニャ、大丈夫か?」

「うっ、怖かったです……」


 少し震えたミーニャが俺の袖を掴む。


(やっぱり、この世界では獣人族は酷い扱いをされているのか。あの時俺が契約しなかったら、もしかしたら今頃どこかの悪い男に売られていたかもしれない)


 俺は、震えているミーニャの頭を撫でた。


(全部の獣人族を救うことなんてできないけど、目の前のミーニャだけでも助けてあげたい)


「いいかミーニャ。おまえは俺の奴隷だからな。俺の側を離れるなよ」


「ふんっ、不本意だけど、仕方ないから側にいてやるです」


 不本意とか言いながらも、ミーニャは俺の服を掴んだまま離さない。気まぐれなネコが懐いたみたいで、俺は少し嬉しくなった。


 ◆ ◇ ◆




「と、ところでジェイドよ。ベッドが一つで、どうやって四人で寝るのだ?」


 部屋に入ったララの第一声がそれだ。

 連れて来たのは良いが、明らかに一人部屋に四人で寝るのは無理がある。


「ミーニャは一緒でも許すです。また連れ去られそうになると困るです。御主人と寝るです」


 どうも、さっきの一件以来、ミーニャが俺に懐いたようだ。俺の服をギュッと掴んで離れようとしない。


「わ、私もジェイドさんと一緒で構いません。ジェイドさんはいやらしいけど、無理やりする人じゃないですから安心です」


 ミウまで一緒に寝ようとする。ただ、いやらしいのは俺じゃなくミウな気もするが。

 あのドスケベボディと寝相の悪さと欲求不満そうな悶々もんもんと溜まった雰囲気。ミウと寝るのは危険過ぎる。


 二人の様子を見たララまで血迷い始めた。


「そ、そういうことならば、わ、我も一緒でも構わぬがな。ジェイドが欲望のおもむくままに我を凌辱しようとも一向に構わぬっ!」


「いや、構えよ!」


 こいつら、ツッコミが追い付かないぞ。


「俺はソファーで寝るよ。ベッドはミウとミーニャが使ってくれ」


「そんな、ジェイドさんがベッドを使ってください。そ、それに……ジェイドさんと一緒じゃないと心細いです」


 ミウが懇願こんがんするように上目遣いで見つめながら言う。


「ぐはっ! そ、そんな誤解するようなことを言うんじゃない」


 そんなことばかり言われたら、好きになっちゃいそうだろ。こいつ魔性の女かもしれないぞ。


 そして、何故かミーニャまで対抗意識を燃やしている。


「ミーニャも御主人と一緒に寝てやるです」


「いや、ミーニャはミウと寝ろよ」


 獣人族では成人とか言ってたけど、見た目がちっこくて俺がロリコンだと誤解されそうだ。


「お、おい、何で我の寝場所が無いんだ……」


 自分の名場所を指定されないララがぼやく。


「あっ、ララは床で良いだろ」

「ヒドっ! な、何で我の扱いが雑になっているのだ」

「何でだろう?」


 ドMっぽいのに床は嫌なようだ。たぶん、Sっぽく攻められるのは好きでも、愛がない攻めや雑に扱われるのは嫌なのだろう。時として、Mとはワガママなものだ。


「ジェイドさん、ララさんにイジワルしちゃダメですよ」


 ミウに注意されてしまう。

 俺がララと仲良くすると怒り出すのに、雑に扱っても怒り出すようだ。



 そして――――


 俺は、巨乳で超可愛いけど寝相ねぞうがクソ悪いミウと、見た目だけ超美人なのにビミョーにキモいララと、ネコミミロリなミーニャと全員一緒に寝ることになってしまった。


「むにゃ~ぁ、えっちはダメですよぉ~」

「ハアっ、ハアっ……お、男と同衾どうきんだ……と(ぼそっ)」

「ふにゃ~っ、ごしゅじん~っ」


「ぐわあっ! 何だこれ、地獄かよっ!」


 左側からムチムチのミウの体が押し付けられ、右側から耳に変なつぶやきとハァハァと息を吹きかけられ、お腹の上にモフモフのミーニャがこそばゆい。

 地獄の一夜が始まった。


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