第11話 極大魔導王シリウス

 目の前に現れた変な女。この中二病的感覚が、まるで昔の自分を見ているようで居たたまれない。

 そう、俺も昔はこんな感じだったのだ。少しだけ共感してしまう自分がいるのだが。


「えっと……誰?」


 俺がそう言うと、ミウとミーニャがトドメを刺すように言う。


「ふ、不審者……?」

「ふにゃーっ! ヘンタイさんです」


 グラッ――


 何となく人付き合いが苦手そうな、その黒髪ロング女が眩暈めまいを起こしそうになっている。


「ま、まてっ……もう一度やり直させてくれ」


 スチャ!

 気を取り直した黒髪ロングが再びポーズを決める。


「わ、我は極大魔導王シリウス、ベルゼビュートララアドラメラク! 七星神にして魔導を極めし者! そなたらの求めに応じて――」


 再び自己紹介を始めた。


「さっきと変わってないような?」

「やっぱり不審者?」

「ヘンタイさんです」


 ガァァァァーン!


 俺たちの反応が前と同じなのを感じた黒髪ロング美少女が、思い切りヘコんでしまった。


(てか、ちょっと待て! 今、確か七星神って言ったよな。この女も俺と同じURアバターで転生した人間なのか? 敵対するつもりはないように見えるけど。これは確かめないとならないな)


「あの、ベル……ベルゼビューなんとかさん」

「ベルゼビュートララアドラメラクである」


 長いよ!


「その、ベルなにがしさんは、七星神なの?」


如何いかにも! 極大魔導王シリウスとは我のことであぁぁーる! あと、ベルゼビュートララアドラメラクだ」


 身振り手振りが大げさで話し方が独特で、ちょっと面倒くさい女のようだ。


「えっと、ベルさんは……」


「せ、せめてララと呼ばぬか! せっかくカッコイイ名を付けたはずなのに、長くて覚えられないと誰も呼んでくれぬのだ」


「はあ……じゃあ、ララということで」


 俺とララが話していると、ミウが「誰ですか?」と言い出した。


「ミウ、彼女は俺たちと同じ転生者だよ」

「そうなんですか」


 ビシィィーッ!


「おい、そこの女! 七星神も知らずにこの世界に来たのか?」


 相変わらず大げさな身振りでララが話し出す。


「ララ、とりあえず座ってくれ。あと、その喋り方は疲れるから普通に喋れないか?」


「わ、分かりました……(ぼそっ)」


(声、小っちゃ! 俺も人付き合いが苦手だから分かるけど、この娘はコミュ障だろ。普段は物静かなのに、自分の趣味とか中二っぽく喋る時だけ饒舌じょうぜつになるんだよな)


 俺達は同じテーブルで食事をとりながら自己紹介と情報交換をすることになった――――



「つまりララは七星神の一人、極大魔導王シリウスというわけか」


「は、はい……昨日、あなたたちがこの店で話しているのを聞いて、他の七星神に会えたと思いまして。またこの店に来るかもと、通りで待ち伏せしていた次第です……(ぼそぼそっ)」


 ララは小声でボソボソと話している。


(これで四人か……。俺の暗黒皇帝リゲル、ミウの聖天神皇とか言ってたのと、あのムカつく神聖剣王ベテルギウス。そして極大魔導王シリウス。他にも超越者というのもあったよな)


 俺はミウの方を向いた。


「ミウ」

「は、はい」

「ミウのキャラ名はどうなってるの?」

「えっと……」


 ミウがステータス画面を確認している。


「あっ、ありました。聖天総大神皇せいてんそうだいしんこうスピカです」


「凄いキャラ名だな……とにかく、これで七星神の三人が集まったわけか」


 この世界で最強のURアバターを持つ七人のうち、三人でパーティーを組めたら有利だな。ここは敵に回らないように、ララをこちら側に引き入れた方が得策だろう。


「ところでララ、この世界に来た経緯いきさつだけど――」


 ララの話によると、はやり俺たちと同じで突然この世界に飛ばされたということだ。それ以上の情報は得られなかったが、ララはゲーマーということもあり、色々なゲームに精通しているそうなのだ。パーティーの魔法職として役に立ちそうで心強い。


「そういうことなら。ララ、俺たちの仲間にならないか?」


「くぅ~っくっくっくっ! 我を仲間に入れようとするならば三顧の礼超お願いすべきだな。この最強にして至高にして最上位の魔法使いである我は――」


 さっきまで小声で喋っていたララが再び変な口調になる。三顧さんこの礼とか、孔明こうめいにでも憧れているのだろうか。


「あっ、やっぱ面倒だからやめようかな?」


「うわぁ~っ、お願いだぁ~っ! 仲間にしてください。一人だと心細いのだぁぁぁぁ」


 さっきまでの威勢はどこに行ってしまったのか、ララが必死に泣きついてくる。


「ジェイドさん、イジワルしちゃだめですよ」


 俺とララのやり取りを、ミウがジト目で見ながらつぶやく。少し怒っているようにも見えるのは気のせいだろうか。


「分かってるよ。じゃあ、ララ。俺たちのパーティーに入ってくれ」


ララは「ああっ、心得た!」と言った後に、「はあぁ……よ、良かった……(ぼそっ)」と小声になった。


「昨日会った時に気付いたのなら話しかけてくれれば良かったのに」


「い、いやいや……そんな簡単にパーティーを組んで、もし相手が怖い人だったら困るじゃないか……。今までのゲームでも、メンバーから暴言はかれたりしたから……少し尾行して人となりを調べないと……」


 ララが何かを思い出すように語り始める。確かにゲームでパーティーやギルドを組むと、プレイ方針の違いで揉めることもあるだろう。

 ただ、ララは少しストーカー気質がありそうな気がして怖いのだが。


「じゃあ、これで仲間も増えたということで……あれっ、ミウ、何か怒ってる?」


 やっぱりミウがジト目になっている気がする。俺とララが二人で話していると機嫌が悪くなるようだ。勝手に仲間を増やしたのが気に入らないのだろうか?


 俺はミウの耳元に顔を寄せ話しかけた。


「ミウ、何か言いたいことがあるのなら言ってくれないか? ララをパーティーに入れるのに反対なのか?」


「べ、別に、反対はしてないです。仲間は多い方が良いと思います」


「なら……」


「ジェイドさんの目がいやらしいからです」


(は? 俺の目が……何を言ってるんだ?)


「だって、ジェイドさん、ずっとララさんの顔や髪に見惚れてるじゃないですか」


「はあ?」


(何を言っているんだ? もしかしてミウは嫉妬しているのか? ははっ、まさかな……どうもミウの言動は意味深な感じで誤解を生みそうなんだよな。これで『俺に気がある?』とか思い込んでエッチに持ち込もうとしたら、『そんなつもりじゃないんです!』とか事案発生に成りかねん。気をつけねば)


「ま、まあ、これで仲間も増えて良かったじゃないか。明日からは本格的に冒険を開始して、この世界のことを調べてみよう」


「はい」

「お、おう」

「にゃにゃ、御主人達は異世界人です?」


 俺の言葉にミウとララが一緒に声を上げる。ただ、ミーニャがこの世界の住人なのを忘れていて、俺たちが異世界人なのがバレてしまった。


「お、おい……このネコミミ少女にバレても良いのか?」


 異世界人なのがバレて、ララが心配そうな顔をした。


「この子とは奴隷契約をしているから大丈夫だ。俺に逆らうと呪いが発動するらしいから」


「ジェイド……そなた、人畜無害な顔して意外とえげつないな……」


 奴隷契約というワードで、ララが完全にドン引きしてているようだ。俺が変な性癖だと勘違いされた気がする。


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