第9話 奴隷契約

 ケモミミ幼女ロリが大人の女だと主張している。微笑ましくて面白い光景だ。まあ、本人が大人だと言うのだから尊重したい気もするのだが。


 獣人族といっても、体は人間と同じように見える。違いは頭にネコのようなケモミミが付いているのと、尻からしっぽが生えているくらいだろう。

 オレンジ色の髪が柔らかそうなモフモフで、小さな体と相まって、ついナデナデしたくなってしまう容姿だ。


 俺はなるべく優しく声をかけてみた。


「ミーニャとか言ったか?」

「そうです。立派なレディーです」


 ミーニャは小さな胸を張って言う。


「ミウ、このケモミミロリがレディーとか面白いこと言ってるよ」

「ジェイドさん、それさっき聞きました」


 話しが進まない。


「だから本当に大人の女です。ふにゃーっ!」


「まあ、キミがそう思うのならそうなんだろうな。俺はジェイド。こっちのヒーラーはミウだ」


「ミーニャちゃん、はじめまして」


 俺とミウが挨拶すると、ミーニャも大人しくなった。まあ、幼女が助かったのだから良しとするか。


「じゃあ、もう捕まるんじゃないぞ。気をつけて帰れよ」


 そう言って戻ろうとすると、ミーニャが俺の後をついてくる。


「おい、何でついてくるんだ?」

「たまたま方向が一緒なだけです」

「そうか」


 ざっざっざっ――

 とことことこ――


 やっぱり一定の間隔をあけて付いてくるようだ。


「おい、やっぱり後をついてきてるじゃないか」

「むうっ…………」


 ミーニャは口を尖らせてそっぽを向いている。


「家に帰るんじゃないのか?」

「家は無いです……」

「親は?」

「いないです……」


 俺より先にミウが反応した。


「ジェイドさん! 可哀想ですよ。連れて行ってあげましょうよ」

「でも……こんな小さな子を育てられないって」

「大人の女だと言ってるです!」


 ポカポカポカ!


 ミーニャが俺の腹をポカポカする。

 攻撃力は無いようだ。


「何か役に立つのか?」

「探索魔法は使えるです」

「俺も使えるけど」

「じゃ、じゃあ、鍵開けとかトラップ解除も」

「それ、俺も使えそうだな」

「うっ、ううっ……」


 ミーニャが泣きそうになる。


「ふにゃぁぁぁ~っ! 獣人族の女なんて、人族に見つかったら奴隷として売り飛ばされる運命なのです。いたいけなミーニャを見捨てないで欲しいのです」


「ジェイドさん、やっぱり連れていってあげましょうよ」


 ミーニャに泣かれてミウまで泣きそうになっている。


「奴隷として売られるって……どうなるんだ?」


「どこかの変態オヤジの慰み者にされて、毎日エッチなことをされる運命なのです」


 ミウは目に涙を貯めて俺を見つめる。


「酷い! ジェイドさん、何とかしてください」

「そうです、ジェイド。何とかするです。ふにゃぁぁぁ~っ、チラッ、チラッ」


 ミウが完全にミーニャ側に付いてしまった。二人で一緒になって、俺にお願いしている。

 ただ、ミーニャは泣きながらチラチラと俺の顔色をうかがっていて少し怪しい。


「おい、今このロリが泣き真似してたぞ。ウソ泣きだろ?」

「ううっ、いたいけなミーニャはウソ泣きしないです」

「そうですよ。ジェイドさん、疑うなんて可哀想です」


(くっ、女子が一緒になって頼んできたら断れないじゃないか。このロリを仲間にしたら、急に成長して強い戦士になるとかラノベっぽい展開なら最高なんだけどな。でも、何か弱そうだけど……)


 しかし、奴隷として売り飛ばされるのは見過ごせない。


(まあ、この世界の地理や情報に詳しいかもしれないか。見捨てるのも可哀想だし、髪やしっぽががモフモフしてるし、仲間にしてみようかな)


「分かったよ。どうすれば良いんだ?」

「やったです。ミーニャ助かったです」

「良かったね。ミーニャちゃん」


 俺がOKした途端、泣き止んで笑顔になったミーニャが、ミウと手を取り合って跳ねている。


「奴隷契約した獣人族は御主人の所有物になって、他の者が手を出せなくなるです。ジェイドが契約すれば良いです。ヘンタイさんだけど、悪い人じゃなさそうだから許すです」


「なるほど、確かに奴隷契約すれば御主人様の所有物に……って、ミーニャが俺の奴隷にだとっ!」


 つい、ケモミミロリが俺の所有物になった絵を想像してしまう。


「ジェイドのエッチ、ヘンタイさん! やっぱり危険です!」

「そうです! ジェイドさんのヘンタイさん!」

「おい……」


 ミウまで一緒に俺を変態扱いだ。


「はあっ、分かった分かった、何もしないって。それで、何をすれば奴隷契約ができるんだ?」


「それなら、奴隷商に行って契約魔法をかけてもらうか、契約魔法を使える魔法使いがかけるかです。高位の魔法使いなら使えるです」


「契約魔法……さっきレベル上げした時に、そんなのを覚えた気がするぞ」


 俺はステータス画面を確認する。

 覚えたばかりのスキルに【奴隷契約】とある。高位の魔法使いでないと使えないらしいが、俺のURアバターなら覚えるのも早いのだろう。


「よし、奴隷契約魔法を持ってるからやってみよう」


「うっ、ジェイドはヘンタイさんなのに、高位の魔法使いなのですか?」


 ミーニャが信じられないものを見たような顔になる。俺を何だと思っていたのだろうか。


「ほら、さっさと契約するぞ。なになに、対象者の肌に手を当てて、心を同調させながら呪文を詠唱だと……」


 奴隷契約魔法の説明を流し読みして、俺はさっそく契約をしてみた。


 ぴとっ!

「にゃにゃっ、エ、エッチです……」

「我慢してくれ」


 ミーニャの服をまくって腹に手を当てる。そのまま呪文の詠唱に入った。暗黒皇帝のスキルで通常魔法は無詠唱で発動できるが、複雑な構造の魔法は詠唱が必要らしい。


なんじ、魂に血の盟約を結び、永遠に絶対服従の隷属れいぞくとなれ。奴隷契約!」


 ファァァァーッ――


 ミーニャの首に、薄っすらと首輪のような模様が浮かぶ。これが奴隷契約の印なのだろう。


「んんんっ……体が熱いにゃにゃ」

 ミーニャが何かに耐えるように、顔を赤らめピクピクと震える。


「あれ?」


 首とは別に、下腹の辺りにも不思議な形の模様が浮かんできた。二つの模様が完成し、奴隷契約が完了したようだ。


「ふうっ、これで完璧だぜ」


「にゃにゃにゃぁぁぁぁーっ! なな、なんで淫紋いんもんがぁぁぁぁーっ! やっぱりジェイドはヘンタイさんだったです!」


 真っ赤な顔で怒ったミーニャが両手を振り回してジタバタしている。


「えっと……何か間違えたのか?」


「これは淫紋と言ってエッチな奴隷契約の魔法です! ドスケベでドヘンタイなエッチ奴隷にされたです! もうミーニャはお終いです!」


「えええ…………」


 もう一度、ステイタス画面のスキル説明を読んでみる。そこには『暗黒皇帝専用スキル。対象の相手を思うがままに催淫さいいんし、いつでもエッチ可能にする。淫紋いんもんの効果以外は、通常の奴隷契約魔法と同じ』と書いてあった。


「あれ? 俺やっちゃった………?」

「ミーニャがエッチ奴隷に……」

「ジェイドさん、最低です」


 呆然とするミーニャ。まるで軽蔑しているようなジト目で俺を見るミウ。完全に誤解されているようだ。もう契約は完了してしまい取り消すことはできないのだが。

 こうして、俺に絶対服従なエッチ奴隷ができてしまった。


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