第8話 ケモミミ幼女に事案発生

 森の中に悲鳴が響く。何かの事件かもしれない。


「行ってみよう」

「はい、ジェイドさん」


 飛行スキルで飛んだまま悲鳴の聞こえる方へと向かう。声の感じから、すぐ近くのようだ。


「あれかっ!」


 上空から近付くと、小さな女の子が数人の男達に囲まれ、今にも襲われそうになっている。


「た、助けてくださいです」


 その少女が怯えた声を出すと、取り囲んでいる男たちが下卑た顔になった。


「ぐへへっ、こいつは上玉だぜ」

「良い値で売れそうだぜ。ふへへっ」

「ぐへっ、奴隷商に売る前に味見しようか」


 いかにも悪人面の男たちが、いたいけな幼女に乱暴しようとしている。完全に事案発生だ。


「あれは、幼女誘拐犯か!」

「ジェイドさん」

「分かってる、助けよう」


 ギュゥゥゥゥーン!

 急降下して接近する。


「まてぇぇぇぇーっ!」


 空から接近すると、誘拐犯達が俺たちを見上げて驚いた顔をした。


「な、何だコイツら! 変態かっ!」

「怪しい奴め!」

「事案発生だぜ!」


 誘拐犯は、口々に俺たちを変態扱いしている。


「おい、それはこっちのセリフだ! 犯罪者はおまえらだろ!」

「そうです。小さな子を襲うなんて許せません」


 俺とミウが反論する。


「空中でエロい行為してる奴に言われたくねぇ!」

「そうだそうだ!」

「この変態カップル!」


 奴らに言われて自分の体勢を見ると、ミウと抱き合うように腰をガッチリと密着させたまま空中に浮かんでいる。ミウの脚が俺を欲しがるように、だいしゅきホールドでロックして離さない。

 まるで人に見せつけるように空中エッチしているみたいだ。


「くっ、しまった……完全に変態だった」

「ちちち、違いますぅ! エッチしてませんからぁ!」


 ミウが必死に説明しようとするが、完全にバカップルに見えるのは誤魔化しようもない。


「ぐへっ、あれは野外プレイってやつだな」

「くっそ! うらやましいぜ」

「こんなハレンチな奴らは極刑きょっけいだろ」


 俺達の反論も聞かず、誘拐犯は勝手なことを言っている。


「違うって言ってるじゃないですかぁ~、私、まだ処女ですぅ」


 このままミウに喋らせておくと自爆しまくりそうだ。ここは、さらっと誘拐犯を退治して幼女を救うしかない。


「ミウ、とりあえず誘拐犯をやっつけて少女を救おう!」

「は、はい」

「支援魔法を頼む」

「任せてください」


 ズサッ!

 俺は地上に降りて戦闘態勢をとる。


「よし、行くぞ!」

「はい!」


 俺たちが構えると、相手も武器を取り出した。


「やっちまえ!」

「こんなハレンチカップルに負けるかよ!」

「リア充は極刑だぜ!」


 俺たちと誘拐犯が対峙たいじする。

 俺が攻撃の体勢に入ると、さっそくミウが支援魔法を使った。


「えいっ、魔法妨害マジックジャミング!」

雷撃ライトニングって、あれっ?」


 俺の手加減した雷撃は、ミウの魔法妨害でかき消された。見事なほどの連携の悪さだ。


「ちょっと、ミウ! 何で魔法妨害なの!?」

「す、すすす、すみませんっ! 間違えましたぁ~」


(まてまて、いくら人間相手で手加減したとはいえ、URアバターである暗黒皇帝の魔法をかき消すって。いったいどんな強力なアンチマジックだよ。ミウの神聖魔法強過ぎだろ!)


「うわぁーっはっはっ! アホだ!」

「アホだな! やっちまえっ!」

「リア充は爆ぜろ!」


 俺たちの滅茶苦茶な連携で、誘拐犯を調子づかせてしまった。


「くっそ、魔法が使えないじゃないか」

「ごめんなさい~っ!」


(まてよ、俺のアバターは元が超強力なうえにレベルも23くらいだったよな。魔法を使わなくても、こんなモブには負けないだろ)


「えいっ!」


 とりあえず、俺は手に持っている究極神器アルティメットウエポンワンドである五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビルで殴ってみた。


 ドォォォォーン! ゴロゴロゴロ!


「ぐわぁぁぁぁああああっ!」


 誘拐犯の一人が大げさなくらいに吹っ飛んで転がる。


「くっ、本来の使い方とは程遠いけど……もうヤケクソだ!」


「とりゃっ!」

 ドォォォォーン!


 二人目を吹っ飛ばしたところで、最後の誘拐犯がビビッて命乞いを始める。


「ひぃぃぃぃっ! ゆ、許して。俺は奴隷商に頼まれて獣人族の子供を集めていただけなんだ。へへっ、毛並みの良い子供は金になるんだよ」


 男の言葉で木の下にうずくまっている幼女を見ると、頭にケモミミが付いている。


「なっ、ケモミミ幼女……だと」


 俺はケモミミで言葉に詰まる。

 そんな俺の感慨など知らずに、男は話を続けた。


「その獣人族はお前にやるよ。た、助けてくれ」


(奴隷商……獣人族……この世界では、獣人族は奴隷として売買されているのか。ファンタジーではありがちだが、この世界も同じなのかよ)


「他の二人を連れて、さっさと帰れ」

「へ、へい。ありがとうございますぜ、旦那ぁ」


 急に卑屈ひくつになった誘拐犯は、他の二人を起こすと一目散に逃げ出して行った。


「ふぅ、これで解決だぜ」


 俺たちが幼女の元へ行くと、その子は明らかに怯えた表情をして後ずさる。


「もう大丈夫だぞ。誘拐犯はいなくなったよ」


「ち、近寄らないでください。へ、ヘンタイさんです!」

「へっ?」


 幼女に言われて自分の体勢を見ると、まだミウと合体したままだった。どうやら抱き合ったまま戦っていたらしい。


「違うから! 変態じゃないから」

「え、え、エッチしてません!」

「ミウ、もう降りてよ」

「ははは、はい。すみません」


 俺とミウで漫才のようになってしまう。相変わらず連携が悪い。こんなんでパーティをやっていけるのだろうか?


「ほら、もうヘンタイさんじゃないぞぉ」


 とりあえずミウを下して話しかけてみた。


「うっ……エッチはしてなかったようですね」


 幼い見た目なのに意外とませた発言をする少女だ。俺やミウの服装をジロジロ見て、ハレンチなことをしていないのを確認している。


「なっ、ヘンタイさんじゃないだろ」

「ま、まあ、助けてくれたのには感謝するです」

「泣かなくてエライな。よしよし」


 頭をナデナデしてみた。


「ふにゃ~って、子供扱いするなです! これでもミーニャは大人の女です」


 頭を撫でられて、一瞬だけゴロゴロと気持ちよさそうにしたのに、急に両手をグルグルさせて怒り出した。ミーニャというのは名前だろうか。


「ねえ、ミウ。この幼女が大人の真似をして面白いこと言ってるよ」

「ふふっ、可愛いじゃないですか。ジェイドさん」


 ミウも微笑ましい顔になった。


「真似じゃないです! 獣人族は人族より早く成人するのです! むきぃぃーっ!」


 ネコみたいな幼女がネコパンチを繰り出している。とても大人の女には見えない。どうしたものか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る