第7話 初めての……

 俺は、初めての体験をしていた。

 もう心臓がドキドキで爆発しそうに高鳴っている。ミウの柔らかな体と良い匂いで頭がクラクラしそうだ。


「あんっ、もう食べられません……んっ」

「何の夢を見てるんだぁ……」


 一緒のベッドで眠るミウが、俺の体に抱きつき変な寝言を言っている。まるで俺を抱き枕か何かと勘違いしているような感じにガッチリとロックして離さない。


「いただきまぁす……かぷっ」


 寝ぼけたミウが俺の首に噛みついた。


「た、助けてぇ~っ……」


 なぜこんな状況になったかというと……。




 一時間ほど前――――


 俺たちは、宿屋に帰り一緒のベッドで寝ることになった。


『ジェイドさん。いいですか、絶対にエッチ禁止ですからね』


 ミウが、めっちゃエッチなパジャマ姿でエッチ禁止を主張する。大きな胸が強調される胸元ゆるゆるの衣装からは、ツヤツヤした胸の谷間がむっちむちで見えまくりだ。もう、意味が分からない。


『分かってるって。今日は疲れたから早めに寝たいんだ』

『じゃ、ここからこっちに来ちゃダメですよ』


 ベッドの中心を指差したミウが、自分の方に入らないように言っている。境界を越えたらエッチ罪になってしまうそうなのだ。


『分かったって。ふあぁ、眠い。じゃ、おやすみ』

『おやすみなさい、ジェイドさん』


(くっそ、こんなん寝られるかよ! エッチなパジャマなんか着やがって! 誘ってるのかってんだ!? でも、疲れてるし明日から本格的に冒険だし寝るしかねぇ!)


 ――――――――



 と、なったはずなのだが。

 緊張する俺の横で、速攻で寝たミウが静かな吐息といきを立て始めたかと思ったその時……。寝ぼけた彼女がゴロゴロとベッドの境界線を越え、俺を抱き枕にしてしまったという訳である。


「はう~ん、美味しいです……むにゃ」

「俺の首をハムハムするのはやめてぇ~」


(あああっ! この娘、くっそ寝相ねぞう悪いぞ。境界線内に入るなとか言っておきながら、自分は入って抱きつくとか何だよ)


「うぅ~ん、目玉焼きにはマヨネーズ派ですぅ~」

「知るかっ!」


 そんなこんなで、一晩中ミウの刺激的なハグを受け続けて朝を迎えた。



 チュン、チュン、チュン――


「んっ……んあぁ……あ、あさぁ……」


 ミウが眠そうな目を開いた。


「え……ええっ……あ、あのあの、きゃっ、ジェイドさん! やっぱりエッチなことを!」


 俺に抱きついたままのミウが、やっぱり誤解しているようだ。


「おい、この状況でエッチなのは俺なのかよ?」

「えっ……あれっ……えええっ!」


 やっと気づいたようだ。

 俺の体を抱き枕のようにガッチリホールドして体を密着させているのは、誰が見てもミウの方だろう。まるで、だいしゅきホールドのように脚まで絡ませている。


「ええっ、ええええっ! ご、ごめんなさい」


 耳まで真っ赤になったミウが、恥ずかしさでオロオロする。俺の胸に顔を埋め、まるでエチエチするように脚まで絡めているのだから決定的だ。もう、完全に痴女かもしれない。


「とりあえず離れてくれ……」

「ははは、はい! すみません」


 やっと俺は、ポンコツ美少女の抱きつき攻撃から解放された。こんな可愛くて巨乳な少女にギュギュっと抱きつかれ、首筋をペロペロされたりハムハムされていたのだからたまらない。


 女性に紳士的な俺でなければ確実に間違いが起こっていただろう。紳士といっても変態紳士ではないぞ。


「えと……これは……ちがくて……」

「溜まってるのか?」

「ちちち、違います!」


 本人は必死に否定するが、意外とミウは性欲強いのかもしれない。


「ふぅ、早く準備をして森に行こう。今日はレベル上げだ。誰かさんのせいで体調は最悪だがな」


「だから、ごめんなさい。違うんですよ。ホントにエッチな子じゃないですからね」


「はいはい。エッチな子は、みんなそう言うんだよ」


「だから違うって言ってるのにぃ~っ」


 俺は、巨乳を揺らしながらエッチなのを否定しているミウを無視して準備を始めた。


 ◆ ◇ ◆




火球ファイアーボール!」

 ドォォォォーン!


 魔法を放ってモンスターを倒して行く。ミウとパーティーを組んだから、経験値は二人で配分され同時にレベルアップできるのはありがたい。

 ただ、この辺りのモンスターではレベルが低くて入る経験値も少ないようだ。


「ミウ、ちょっと遠くまで行ってみようか?」

「はい」


 ミウを連れて飛行フライで飛べば良いかな。


「じゃあ、魔法で飛ぶから掴まって」

「はい」


 ミウが、ちょこんと俺の袖を掴む。

 このまま飛んだら確実に落としそうだ。


「ミウ、もっと俺にくっついて」

「へっ、ええっ……でもっ」

「早く」

「は、はい」


 ぎゅぅぅ~っ!

 なぜかミウが俺をハグするかのように、巨乳を押し当てて抱きしめてきた。


「えっと、何で前から?」

「だ、ダメですか……?」

「ダメじゃないけど……」


(ミウって、抱きつき魔なのか? でも、男が苦手そうな印象だけど……)


「じゃあ飛ぶから。飛行フライ!」

「きゃああああぁぁぁぁーっ!」


 ビュゥゥゥゥーン!


 ミウの絶叫と共に、俺は空に浮かび上がる。

 俺の首に両腕を回しているミウだが、下半身がブラブラして危なっかしい。やっぱり背中に掴まるべきだった。


「怖いですぅ~っ! 降ろしてくださいぃぃ~」


 ガシッ! ぎゅぅぅ~っ!


 ミウの両足が、俺の腰に回してガッチリロックされてしまう。俗に言うだいしゅきホールド・・・・・・・・・だ。夜も同じ状況だった気もするが。


 もう絶対に離れたくないと言わんばかりに腰を密着させるミウ。これは他人から見られたら、完全に誤解しそうな絵面えづらだろう。


「ジェ、ジェイドさん……」

「え?」

「わ、私のお腹に何か当たっています」

 ギクッ!

「そ、それは……そう、魔法のワンドだよ」


 ミウが俺の手に握られているワンドを見つめる。


「ジェイドさんの嘘つき」


 ちょとだけジト目になったミウがつぶやく。


「ちょと! 俺、悪くないよね」

 

 夜中に散々エッチな抱きつきやペロペロをしたくせに、俺の自然な現象にはツッコミを入れられるのは理不尽過ぎる。


「やっぱりパーティー組むのやめようかな?」


 そんな気はないけど、ちょっとミウにイジワルしてみる。


「わ、分かりましたぁ。もう、文句言いませんから捨てないでぇぇ~っ!」


 更にギュギュっと密着され、色々とヤバくなったまま飛行を続ける。こんなの誰かに見られたら、アブノーマルなプレイだと勘違いされそうだ。



「きゃああああぁーっ! 誰か助けてですぅーっ!」


 その時、森の奥から少女の叫び声が聞こえた。何かの事件発生だろうか。


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