第5恋

 友達になってください告白からのよろしくお願いしますの出来事から数日、あの時のことは嘘だったかのように雅喜と未麻の間に進展はなかった。単純に学年が違うと会わないのだ。会いに行かなければ見かけることすらない。それならば、友達として堂々と会いに行けばいいのだが、これだけ何もないとあの日の出来事は夢か幻か、またはパラレルワールドだと思ってしまう。そうなると会いに行く自信なんて雅喜にはなかった。それでも何かないものかと雅喜は放課後図書室を覗いているが、あれ以来図書室に未麻はいなかった。あるのは間違って借りようとした百科事典のみだ。

「いや、どうしろと」

 恋愛どころか女の子と話すことさえ拒んできた雅喜はこの状況の打開策を知らなかった。照れくささからか直輔にも言うことができずにいた雅喜は途方に暮れ、昇降口で薄暗い空を眺めながら立っていた。ボーッとすれば、何かしら案が浮かぶかもしれないと考えていたが、空を眺めながら考えることは空のことであり、何も浮かばない。

「あのー」

 数回しか聞いたことがないが、求めていた声に雅喜は一気に覚醒して振り返った。

「先輩、何しているんですか?」

 鞄を持って帰る様子の未麻に、雅喜は表情を作ろうと力んだ。

「別に。帰るとこ」

 素っ気なく返す自分に腹を立てるが、その態勢を崩すことができない雅喜は内心ひやひやしながら未麻を見た。未麻は特に気にすることなく「そうですよね」と頷いた。

「じゃ、私、帰りますんで」

 そして、爽やかに笑って何もなかったかのように帰ろうとしたものだから、雅喜は慌てた。素っ気ない態度で何を言っているんだと言われればそうなのだが、もっと一緒にいたいのだ。

「待って、倉橋未麻」

「はい?」

「あの、俺さ」

 雅喜は視線を泳がせながら呼び止めた理由を考え始めた。未麻は不思議そうな顔をしながらも待っていてくれる。なんて優しいんだと感動しながら雅喜は仏頂面ポーカーフェイスを保ちながら口を開いた。

「一緒に帰る。友達だから」

「いいんですか?」

「友達だろ」

 断られたら絶望どころではない。それでも、一緒に帰りたい。その想いの方が強かった。

「いいですよ。帰りましょうか」

 驚きで目を丸くしていた未麻はまばたきを数回した後、微笑んだ。

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