第3恋

 漫画の世界なら、ここが二次元の世界なら主人公に気になる女の子ができたら、三日以内に二人っきりになる機会が自然に、運命的に訪れる。

「まぁ、期待していなかったけど」

 雅喜は頬杖をついて呟いた。未麻に出会ってから一週間。そんな機会が訪れることはなく、それどころか一目見ることすらなく平和な日々を雅喜は送っていた。当然、漫画の世界ではないので、雅喜にそんな偶然の皮を被った奇跡は起こらなかった。つまり、自分の力で未麻と出会わないといけない。

「やばい、どうしよう」

 平然を装う雰囲気を醸し出しながら、雅喜は内心焦っていた。あんなにも愛らしく、ふわふわしていて、優しそうな彼女がモテないわけがない。あんなにも輝いているのだ。早めに行動しないといけない。そう思っているのに雅喜の身体はここ一週間、この席から動こうとしなかった。

「早くしないと」

 彼が焦っているのは彼女に恋人ができるかもしれないということだけではない。もし、彼女に恋人がいなくて、自分にチャンスがあったとしたら積極的にアピールするべきだ。しかし、その前にすることがある。自分の最悪な評判について弁明することだ。最悪の愛想から雅喜の女子生徒からの評判はかなり悪い。同学年だけじゃない。きっと全学年にこの評判が流れているはずだ。いくら転校生だとしても、自販機の前で会った人、間本雅喜じゃない?え、誰?何、未麻知らないの?あの人はね・・・的な流れで耳に届くはずだ。早めに会って話して、自分には優しく柔らかい所があることを言いたい。

「くそ」

 雅喜は机に伏した。こんなにも、自分の評判を邪魔に思ったことはなかった。想定外の天敵となった評判を雅喜は恨めしく思った。



 放課後会いたいのにどう会えばいいのかわからないともやもやしながらも、雅喜は校内を歩いた。こっそり覗いた昇降口から未麻はまだいるようだった。そんな会話を聞いたから間違いない。早く見つけ出せばもしかしたら二人っきりだ。

「どこだろ、部活か?委員会か?」

 ポケットに手を突っ込み、前のめりになりながら人を睨むように目を凝らして探す姿は最高に怖い。そんな自覚がない雅喜の足取りはどんどん速くなっていった。

「あっ、図書室」

 覗いていなかった教室を覗いてみると、見つけた。

「いた」

 受付の所で静かに本を読んでいる未麻を見て、自然に図書室の中に入った。何か目的がないと怪しまれると今まで入ったことのない図書室の中を見渡して、数人いる生徒達がいなくなるための本を探した。本を出しては開き、選ぶフリをしてはバレない程度に未麻を見ると、読書に集中しているようで自己の世界にいるようだった。


 二時間も経てば、生徒は雅喜と未麻だけになった。相変わらず未麻は本を読んでいて、時間も何も気にしていないようだった。雅喜は周りを確認して、一番近くにあった本を持つと未麻に近づいた。

「あのさ、これ借りたいんだけど」

 ドンッと無駄に重い本を未麻の前に置いた。頬を赤らめつつも、情けない顔は見せられないと全力でかっこいい顔を意識して、やっと自分の顔を見た未麻を見つめた。

「それは、その、お貸しできません」

 困ったように眉を下げながら答える未麻に雅喜は初めて自分が持ってきた本を見た。

「百科事典?」

「えぇ、それは貸出禁止なんです。すみません」

 よりにもよって、なぜ貸出禁止の本をこの本が大量にある本の中から選んでしまったのだろうと後悔した。

「あの、大丈夫ですか」

 後悔と羞恥で固まってしまっている雅喜に未麻は怯えつつも心配そうに見つめた。先程のかっこいい顔も今の顔も未麻を睨んでいるだけということに雅喜は気づいていなかった。

「やっぱり、それは借りない。その代わり、倉橋未麻。俺と、俺と友達になって」

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