第30話 博多の夜

 あれは出張で博多のビジネスホテルに泊まったときだった。

 ホテルのバーで一杯引っかけてから寝ようと思いふらりと立ち寄った。

 カウンターで隣に座った女性が泥酔してしまい部屋まで送った。

 それだけのつもりだったが、女性はよほど辛いことがあったようで、ベッドに辿り着いたとき遼平にしがみついてきた。

 遼平も女性に付き合ってしこたま飲んでいたので、そのあと何があったのかおぼえていなかった。

 気がつけば、遼平はベッドに1人寝ていた。

 

 あれは何年くらい前のことやろ?

 ミカのお腹に勇気が宿り、妊娠初期は流産しやすいからと拒否されたんやった。

 ちょうど時期も重なる。

 博多の女性の顔を見てないし、おぼえちゃいない。

 ただ、魔女の爪が夢に出てきたのか、そんな記憶がある。

 

 もし、仮にあのときの女性がリョウ君ママやったとして、そしたらリョウは俺の子ということになる。

 ミカはDNA鑑定するなんて言うてたけど、え~、どないいしよう。


「パパ、えらい汗かいて、どないしたん。どこぞ悪いんとちゃう」

「い、いや、何もないで」

「何もないって、何やのん?」

「いや、そやから何もないって言うてるやろ」


 遼平の顔から変な汗が噴き出てきた。

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