第29話 リョウ君のお泊まり

「リョウ君がお泊まりする、そのときがチャンス。歯ブラシでも髪の毛でも採取してDNA鑑定するねん」

「何もそこまでする必要あるんか?」

「この際やからハッキリさせた方がいい。それとも調べられて困ることあるん?」

「い、いや、ないけど」

 

 ミカはいやにはりきっていた。


 数日が過ぎ家に帰ると、風呂から上がったばかりのリョウとユウが、キャキャとじゃれ合いながら出迎えてくれた。


「もう風呂に入ったんか」

 

 見たそのまんまのことを言った。


「うん、パパお休みなさい」


 二人同時に言ってケラケラと笑っている。

 遼平はなぜだかドキリとした。


「ああ、お休み」


 洗面所で手を洗ってくると、ミカが訊いた。


「ご飯すぐ食べられるけど、お風呂に先入ってしまう?」

「腹減ったから飯にしてくれ」

 

 ミカの得意な煮込みハンバーグが肉汁のいい匂いをさせテーブルに置かれた。

 ケチャップソースはちょっと大人には甘すぎた。遼平は冷蔵庫からマスタードを取りだし少し多めにかけた。ついでに缶ビールも取り出し、


「ミカも飲むか?」

「ううん、うちはええ、ところでリョウ君ママ、また博多に帰るんやて」

「えっ、リョウ君ママ、博多の人やったんか?」

「知らんかったん、お友だちがネイルサロンの3号店をオープンするんで、てつどうて欲しいって」

「へー、景気がええんやな」

「どうりで、いつも綺麗な爪してると思うたわ」


 ミカは短く切り揃えた自分の爪を見詰めた。

 リョウ君ママは料理がうまかったけれど、その長い爪で料理が出来るんかと思った。


「リョウ君ママ、博多の人やったんや」


 遼平は心の中で言ったつもりやったが、声に出していたようや。


「そやから、そう言うてるやん。すぐに来て欲しい言われとって、今引っ越しの用意してはるわ」

「えらい急やな」

「やからリョウ君預かってちょうどよかったみたい」

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