第16話 忘れられない味噌汁

「あら、遼平さん、もう出かけるの? 朝ご飯は?」

「お義母さん、すみません、時間がなくて、晩ご飯もいりません」


 遼平は逃げるように家をあとにした。

 ふにゃけたような、たよんない味の朝食を食べさせられたらたまらない。

 ミカでももう少しましな料理をする。そのてん、リョウ君ママの味噌汁は美味かった。まだ、この時間なら幼稚園には行っていないだろう。

 遼平はアクセルを踏んで加速した。

 マンション駐車場のエレベーター8階のボタンを押した。


「あら、おはようございます」

「おはようございます。勇気の着替えを持って来たのですが、何を入れたらええのかわからんで」

「あっ、パパだ」

 

 勇気がお箸を握りしめたまま飛んで来た。味噌汁のいい匂いが漂ってきた。

 どうやら朝食の最中のようだった。それを見越して来たのやけど。


「パパ、上がって、上がって」

「上がってっておまえの家でもあらへんのに」

 

 勇気が遼平の腕を引っ張る。

 リョウ君ママがクスリと笑って、


「本当にお上がりになって、朝食は召し上がっていらしたの?」

「いや、お義母さんには悪いんですけど、お湯で伸ばしたような薄い味噌汁はどうも」

「あら薄味は躰にいいって言いますでしょ」

「それでも限度ってものがある、せめて出汁の旨味があったら。リョウ君ママの味噌汁を飲ませてください」

「あら、お安いご用です」

 

 リョウ君ママはクスクス笑いながら言った。



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