第13話 ミカの帰還

 夜ふけにミカは帰って来た。

 目の下にクマを作り、10歳も20歳も老け込んだ感じだった。

 小太りのミカが、こう言うと怒られる、ふくよかなミカがげっそりとやつれている。


「心配するやろ、電話の一本くらいでけへんかったんか」

「病院におったん、今も充電切れ、あっ、充電器持って行かんと」

「また、出かけるんか?」

「うん、ノンちゃんが切迫早産になりかかって、救急車で運ばれてん。一歩も動かれへんの。まだ8カ月や言うて旦那は海外赴任中やし、ノンちゃんの母親は認知症のじいちゃんがおるから来られへんて」

 

 ミカはそう言いながらスーツケースに着替えを詰め込んでいく。

 そんなに長いこと帰ってこんつもりか、そういう言葉を喉元まで出しかけて押し留めた。ノンちゃんは学生時代からシェアハウスしていた、ミカの友人だ。

 ミカとのデートに彼女も交えて、何度か一緒に遊んだ。

 気性のサバサバした気持ちのええ子。


「ユウはもう寝てるやろから顔見らんと行くわ、表にタクシー待たせているし」

 

 そう思っているならその方がええ。ミカを煩わせることもないし、リョウ君ママの話をするとママが不機嫌になると勇気が言ったことも引っかかっていた。


「なんや忙しないな」

「夜、遅い時間にタクシーつかまらへんから」

「そうやろけど、おい、その荷物、俺が持って行ったるわ」

 

いつになく遼平は優しかった。


「サンキュー」

 

 タクシーのトランクにスーツケースを押し込むと、


「うちの母親に来てくれるよう頼んでおいたから」


 ミカはそう言うと行ってしまった。


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