第10話 ミカがおらん

「ただいま」

 

 別に足音を忍ばせる必要はないのやけれど、そっとリビングの扉を開けた。


「あれ、ママ、ミカ、おらんのかな」

 

 部屋の中は昨日出かけて行ったときのままのようで、ミカが帰って来た形跡がなかった。女子会って言うてたけど、ミカも泊まって来たのやろか。やったら電話の1本くらいよこせよ。自分のことは棚に上げる。


「ママいないね。あっ、それより僕、幼稚園に行かなくちゃ」

「おお、そうやな」

「パパ、お弁当、どうしよう」

「幼稚園に行く途中のコンビニでサンドイッチかお握りを買おう」

 

 勇気は黄色いカバンを斜めにかけ玄関に向かった。

 

 コンビニで車を止め、勇気の選んだ小さなお握り弁当を買いカバンに入れた。

 

 幼稚園に着くと、今着いたばかりのリョウの所に駆け寄った。

 リョウ君ママがいたら挨拶をするべきか。大勢の母親たちの前で何て言う。

 いや、ここは早く立ち去るべきや。

 

 遼平が家に帰っても、ミカはまだ帰っていなかった。

 シャワーを浴びている間に、勇気が借りて帰った服を洗濯乾燥機にかける。

 ミカのことも気がかりやし、今から会社に行くのもかったるい。

 有休を消化をすることにした。電話に出た若い女性事務員が、着実に消化されていますね、と言った。あれは嫌みやったのやろか。 


 

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