恋愛

 フチノは女性に抱かれて、部屋の中に入った。マンションらしく少し狭いが、おしゃれでシンプルな部屋だった。そして、仏壇があった。遺影は猫のものだった。

「ここ、このゲージ」

女性はフチノをゲージに入れた。飼育用のものはうちとは少し違うが、広くて、過ごしやすい環境だった。

「そうだ、まだ名前言ってなかったね。私は結花ゆか

結花はそういうと、ゲージの中にいるフチノをナデナデした。

そして、仏壇に手を合わせていた。


ゲージの中で、ご飯をもらう。いつもと違う味で、家では茹でた柔らかいものだが、ここではカリカリしている。まあ、これはこれで美味しいけど。それから、水を飲んで、フチノは寝た。


 起きると、ゲージの前にはでっかいなにかがあった。ドドーンと目の前にずっしりとある。遠く離れてみると、そこには猫がいた。フワフワの毛を身にまとい、リボンを巻いて、鈴がついている。クリックリの目に、長い尻尾、ニッコリしている口元・・・・・。

(カワイイ・・・・・)


これまで、恋愛感情など抱いたこともなかった。あのタイピング猫・ココアにも恋をしなかったのに、なんでこの子にはキュンとなってしまうのだろう。

全く動かず、クリックリで、少し布のようなものが見えているような気もして、足には糸が絡まっていて、肉球が全く見えない。猫なのか。そもそも生き物なのか?人間なら、疑って当然と思えるべきところだ。いや、考える間もなく判断できるものだが。


カーテンが揺れる。開いている窓から風が吹いている。すると、フワフワの毛の猫はあっけなくポテッと倒れた。

「ミャー!」

少し、興奮してしまった。体が弱い子なのだろうか。

(大丈夫かな?)

目は開いているし、口も笑顔のまま。病気を患っているのだろうか。きっとそうだ。

「ミャーミャーミャー」

フワフワの毛の猫(以下フワネコ)にフチノは話しかける。それでも、この子は起きなかった。


「ミャー!!」

フワネコちゃんを助けてもらうために、結花を呼ぶ。

「あら、どうしたの。あ、お水欲しい?」

「ミャー!」

違うと言いたいのに、結花には逆効果だった。

「分かった。お水持ってくるね」

結花は水を取りにあっちに行ってしまった。その時に、フワネコを立て直してくれた。

(結果オーライ)

って、こういう時に使うものなのだろう。


 もう一度フワネコが倒れてしまうと、フチノも一緒に横になり、ゲージ越しに手をつないで眠った。


夜、起きるとフワネコも起きていた。

「ミャー」

おはようという意味だ。

猫は基本、夜に活動する生き物でもある。だから、起きても不思議はない。

結花は慣れているのか、スースーと寝息を立てながら眠っていた。

「ミャー♪」

横には、フワネコ。立っている。少しだけ表情が明るくなり、目がキラキラしている気がする。

「ミャーミャーミャーミャー」

フチノはたくさんのお話をした。自分のこと、タイピング猫のこと、おうちのこと・・・・・そして、広い世界のことをたっくさん。

フワネコは何も表情を変えずに黙って聞いている。

フチノは深く聞き入ってくれているのだと思って、そのまま、自分が好きなフードのことを話し出した。


少しだけ眠気が差し、それでも話をしようと起きると、フワネコは寝転がっていた。

「ミャー」

ドキドキと心臓がなる。フワネコは何が起こるのか分からないのか、まだ寝転がっていた。スヤスヤという寝息は聞こえないが、風と車の音が邪魔しているだけだろう。そう思うことにした。

あの、かわいい子をゲットするのは今しかない。もうすぐしたら、今すぐ飼い主が迎えに来るかもしれない。だから、今のうちに気持ちを伝えておかなくては。フチノは、ついに決心をしたのだった。

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