迷い猫の恋

DITinoue(上楽竜文)

迷子

 マンションの駐車場。住民ではない、マンションに来たお客様用の駐車場。そこに、一匹のぶち猫が歩いてきた。ほとんど車が通らない駐車場を駆けて、そのまま当てもなく階段を上る。

「ミャー」

可愛く鳴くが、反応はない。猫は階段を足早に上ると、住民エリアへと歩いていった。


 この猫は迷い猫だ。街中で飼い主と「抱っこ散歩」をしていたところを、はぐれてしまった。そのまま、飼い主がいそうなところをくまなく探すが、見つからない。家への帰り道は、当然のことながら分からない。

この猫の名前は「フチノ」友達はタイピング猫として有名になった「ココア」女の子だけど、恋愛感情はなかった。


 これまでは、何一つ不自由なく暮らしてきたフチノだが、いきなり極限状態に放り出されると、苦しい。足が痛い。野良猫なら、こんなの慣れていてへっちゃらなのだろうが、飼い猫は違う。お腹が空いた。喉が渇いた。でも、食べ物も水もない。そもそも、どうやってそんなものを手に入れるかは分からない。なんの当てもないけど、ひたすら飼い主さんを追いかけるしかなかった。どこにいるか分からないけど。


マンションの階段を上り、「えれべーたー」なるものを見つけた。でも、そんなのどうやって使うか分からない。このマンション、結構広い。だからかなりの時間がかかるかな。住民が住んでいる、と勘が告げる場所へフチノは走り出した。


 走っている途中に掲示板を見つけた。その掲示板にはこう書いてあった。

「このマンションでは、犬、猫、その他の動物を飼うことを一切禁止しております」

フチノは一つの考えが浮かぶ。これは、このマンションの中でブラブラしていたら、捕まって殺されてしまうか監禁されてしまうかされるんじゃないか?そう考えると、今すぐここを出なくてはならない。だが、フチノの勘がまた意見をしていた。管理人はそんなに残虐な人物ではない・・・・・はず、と。そして、万一何かがあっても住民が助けてくれるのではないか。そう思って、まだここで飼い主さんを探すことを決めた。


そして、もう一つ。

「近隣住宅の住民から――ぶち猫の『フチノ』が行方不明というお知らせです。見かけた方は管理事務所までご連絡ください」

フチノ・・・・・?まさか、それは僕のことなのか。ついでに言うと、写真は確実に僕の姿を映しているものだった。

てことは、ここにいても大丈夫じゃないのかな。そう思ったのは合っていたのか、それとも、間違っていたのか――?答えはのちに教えてくれる。


 勘が当たって、住民の居住区にやってきた。自分が知っている家はあるか、あったらそこに駆け込むのだが・・・・・残念ながら、全く見当たらなかった。せめて、知ってる人がいればいいのだが・・・・・。


というところ、雨がシトシトと降ってきた。

(ああ、最悪だ――)

そんな思いが胸の内を回り、曇らせる。シトシトから、サーサーと、そしてザーザーと降ってきた。

(これはもう動けない・・・・・)

フチノはどこかの家の玄関の屋根の下に入った。


 寒い――雨はやむことなく、かえって雨足を強めている。体が震えてくる・・・・・どうする、このままもう少し移動するか、このまま待つか――。そんなことを考えていると、雨宿りをしている部屋から人間が出てきた。

「ニャー」

フチノは出てきた女性に向かって、挨拶をする。

「あら、猫ちゃん。迷い猫ちゃんかしら?でも、このままは可愛そうよね。よっしゃ!猫のケージがあるから、入れてあげる」

そう言って、女性はフチノを抱っこした。そして、そのまま中に、ケージに入れてくれた。

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