【17】突入作戦①
館の玄関は固く施錠されていた。
東雲さんが玄関の前に立つと、他の隊員はブルーシートを広げて、囲いを作った。
「網切」
東雲さんが呟いた。
すると、どこからともなく、東雲さんに使役されている妖怪『網切』が姿を現した。
なるほど。隊員がブルーシートを広げたのは、妖怪の姿をマスコミから隠すためか。
鴉のような顔と巨大な鎌が両手についているその妖怪は、現れると扉めがけて手の鎌を数回振った。
金属製の扉は豆腐のように切り裂かれた。
扉の先には机や椅子、タンス等で簡易的なバリケードが作られていたが、網切が一度体当たりをすると簡単に崩れ去った。
銃で武装した隊員が先に館の中へ入る。
安全が確認され俺達も館へと入った。
古めかしい内装の玄関の先には広い大部屋が一つあり、そこから3つの廊下が伸びていた。
予定通り、俺達は3つの班に分かれて行動することにした。
俺の班には、高木と、隊員4名がいた。
「では、高木君、神崎さん。一旦お別れです。どうか気を付けて」
東雲さんはそう言って、班員を引き連れて真ん中の廊下を歩いて行った。
東雲さんと別れ、俺も水谷の捜索を始める。
隊員が前後に二人ずつ、俺と高木は挟まれるように進んだ。
高木は既に『妖狐』という妖怪を出現させている。前に見た時より、少し小さい気がした。
『妖狐』の姿を見ても、隊員達は顔色一つ変えなかった。
「止まれ」
最前列を歩いていた隊員が言った。
全員に緊張が走る。
隊員の目の先には白い仮面姿の男が立っていた。手にはナイフが握られている。
不気味に笑う顔をしたマスクを見て、背筋がぞっとする。
男の姿を確認して隊員達が即座に銃を構える。
「ナイフを床に置いて両手を上げろ!」
男に対して、隊員が怒鳴るように命令する。
仮面の男は応じない。
それどころか、ナイフを遊ばせながら、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。
挑発のつもりか?それとも、どうせ撃たないだろうと、たかをくくっているのか?
俺がそう思ったその時。
隊員の銃が爆ぜた。聞きなれない銃声に、反射的に身体が反応する。
先ほど警告していた隊員が、男の足を撃ったのだ。
覆面の男はうめき声を上げながらその場に倒れ込む。
前にいる二人の隊員は男に銃を向けながら、ゆっくりと歩き出す。
「あああああぁぁあああああ!!!!!!」
痛がっていたはずの仮面の男は突然立ち上がり、発狂しながらこちらへ走ってきた!
まだ手にはナイフが握られている!
次の射撃に、警告は全く無かった。
二人の隊員がほぼ同時に引き金を引く。
無数の弾丸をもろに撃ち込まれた男は声もなく倒れた。
男の身体から血がとめどなく流れ出る。
『CP、こちらA小隊。a2で交戦。1名排除』
予め渡されたヘッドセットに隊員の無線音声が響く。
人を殺したというのに、ひどく簡素な報告だった。
『了解。そのまま進め』
作戦司令と思われる男性の返事が返ってくる。
俺は撃たれた男の顔を覗き見た。
外れかけの仮面の向こうには、虚ろな表情の男性がいた。
既に生気はない。完全に死んでいた。
俺は、初めて人の死を目の当たりにした。
人間というのはこんなに簡単に死ぬのか……。
男の顔を凝視していると勢いよく肩に手を置かれた。高木だ。
「こんなのでビビってたら水谷ちゃんなんて探せないぞ!根性見せろ!」
それで励ましているつもりか?
ここでくじけたら、こいつに馬鹿にされるな。
「……あぁ、わかっている」
俺達は、また再び歩き出した。
しばらく歩いていると、遠くから複数の銃声が聞こえてきた。どうやら他の小隊も、犯人達と戦っているらしい。
それを裏付けるように、新たな無線が聞こえてきた。
『CPより各小隊へ。容疑者達の中に銃で武装している者が確認された。装備は旧ソ連製のAKと拳銃だが注意しろ。目標の妖怪はまだ発見出来ていない。引き続き捜索せよ』
それから何部屋か小部屋を調べ終えて、大部屋に行き着いた。
途中、2人の男に襲われたが、隊員達は容赦なく彼らを撃ち殺した。
「クリア」
犯人を殺すたびに言った隊員のその台詞は、まるで掃除でもしているかのようだった。
大部屋の扉には鍵が中途半端に掛けられていた。俺達の突入で施錠どころではなかったのかもしれない。
高木の妖狐が、鍵ごと扉を破壊して中に入る。
部屋の中は酷い匂いだった。
隊員の銃に付いたライトに照らされて、薄暗い部屋の中に女性が横たわっているのが見えた。
まさかあれは……。
俺は彼女の名を叫んだ。
「水谷!」
傍まで駆け寄って顔を確認した。
間違いない。彼女は水谷杏奈だ!
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