【13】インタビュー

「鎮静剤で今は落ち着いているとはいえ、まだ望月君の精神状態は不安定です。くれぐれも彼の感情を高ぶらせるような質問はやめてくださいね」

「はい、わかっています」


 東京都内にある病室、305号室の前で、高木と病院の医師が立ち話をしていた。

 医師からの忠告を聞き終えて、高木は病室の扉を開いた。

 病室のベッドには、薄い青色の病院服を着た青年が天井を見つめながら横になっていた。


 患者である望月の目は虚ろだった。

 鎮静剤の影響で意識が朦朧としているため、会話に支障がある恐れがあると言っていた医師の台詞を高木は思い出した。


「望月良樹君だね?」

 出来るだけ優しく、子供に話しかけるような口調で、高木は青年に声をかけた。

「……そうですけど、だれですか?」

 望月はゆっくりと言葉を発した。

 恐らく、鎮静剤の影響だろう。言葉の端々から気だるい印象を覚える。


「望月君達が襲われた事件の捜査をしている探偵の高木という者です。今日は、望月君が見た『一つ目』の怪物について聞きに来ました」

「たんていさん……?けいさつのかたではないんですね」


「うん、違うね。望月君は気にしなくていいよ」

「そうですか」


「それで、早速本題に入るけど、君が見た化け物は多分本物だよ。警察の人は信じてくれなかっただろうけど、俺は信じるよ」

「そりゃあそうですよね。……あんなことを人間ができるわけないじゃないですか」


「その化物の姿形をもう一度教えて貰えるかな?」

「……かおにおおきな目玉がひとつありました。くちのなかにはしろいはが生えていました」


「他には?」

「……体に4本のうでが生えていました。とても大きなうででした。他はにんげんと同じような見た目でした」


「腕に手と指は付いていた?」

「はい、付いていました」


「化け物の皮膚の色は?」

「暗くてよく覚えていないけど、たぶん灰色だったと思います」


「化け物の大きさは?」

「3メートル以上はあったと思います」


 患者の心拍数を表示している機械から聞こえてくる機械音がだんだんと早まる。


「君は化け物を見た時、どんな気持ちになった?」


 それまで淀みなく質問に答えていた望月の表情が固まった。


 心電図が更に早いペースで鳴り響く。


「初めてあれを目にしたときは、恐怖よりも興味の方が強かったです。あんな大きな、不思議な身体をしている生き物は初めて見ましたから。でも、アイツは人間を、健一を食べて、藤原さんの頭を食べて!なのに、俺は何も出来なくて!あぁ、あああ!!!」

 望月はそう言いながら、両手で自身の頭を激しく掻き始めた。その瞬間、心電図から激しい警告音が鳴りだし、すぐに医師と複数の看護師が部屋に入ってきた。


「望月さん!大丈夫ですか!?落ち着いてください!」

「最後に鎮静剤を打ったのは何時間前だ!?」

「4時間前です!」

「早く新しいのを持ってきて!」

「はい!」




 望月の様子は一変し、ボイスレコーダーの時と同様、激しく暴れ出したため、高木は退室を余儀なくされた。


 望月の右手は、化け物によって負傷したとされている。彼の友人達は殺されているのに、なぜ望月はその程度の怪我で済んだのか。

 望月は化け物に対して好奇心を抱いていた。妖怪の多くは、標的が自身に対して恐怖や殺意の感情を持っている時に攻撃する。

 だから、望月は攻撃の対象にならなかった。右手を引き千切ったのは、恐らく望月の出方を窺うため。

 その場合、犯人グループが妖怪に対して、恐怖心を抱かず、むしろ好意的な感情を持っていたとしたら妖怪の隠蔽は可能ということになる。そうなると、悪魔を崇拝していた坂口達はかなり怪しくなるな。


 そんなことを考えながら、高木は病院内を歩いていた。

 病院から出た時、電話がかかってきた。神崎からだ。

「もしもし、お前今どこにいるんだ?」

「高木!水谷を誘拐した犯人が分かった!あいつだ!水谷の元カレの阿部だ!」


「何だと?何でそんなことがわかった?」

「水谷を標的にするなんてアイツしかいないと思って、阿部の家に向かったんだ。そしたら、アイツがちょうど家に戻って来ていたんだ。そこで捕まえようとしたが逃げられた。でも、車のナンバーは写真に撮ったから後は追える!」


「わかったわかった。まずは落ち着け。もう一度聞くが、お前今どこにいるんだ」

「まだ阿部の家の中にいる」


「わかった、今から迎えに行ってやる。詳しい話は後で聞かせてくれ。全く勝手に動きやがって」

 高木はそう言うと電話を切り、駐車場に停めていた車に乗る。そのまま、神崎がいる場所へと向かった。

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