【12】電話

「何とも気味の悪い遺書だな」


 俺と一緒に坂口の手紙を読んでいた高木が、そう口にした。

「どうやらこいつが望月君達を裏切った犯人で間違いなさそうだな」

「そうだな」


 高木はそう言うと携帯電話を手にした。

「白石さんに報告するのか?」

「ああ」

 高木は俺にも声が聞こえるように、電話をスピーカーモードにしてかけた。数回のコール音が聞こえて電話が繋がる。


「もしもし、白石です」


「お疲れ様っす。高木です。今、望月君達と肝試しに行っていた坂口という男の家にいるんですが、どうやら彼は今回の事件を引き起こした犯人グループの一人だったみたいです。彼の部屋にそれを示唆する手紙が置かれていました」

「坂口?手紙?変ですね。警察の捜査員が、つい一昨日坂口家の聞き込み調査と部屋の捜査をしたばかりなのですが、その時はそんな物は報告されませんでしたよ」

「一昨日……?つまりこの手紙は昨日今日で置かれた物ということですね。そうなると両親はその時に襲われたか」

「坂口君のご両親がどうかしたんですか?」

「いなくなっているんですよ。家の戸締りも全くされていません。恐らく、坂口とその仲間によって誘拐されたと思われます。手紙にはそのことについても書かれていました」

「そうですか。すぐにそちらに捜査員を派遣して調査させます。こちらからも報告があるのですが、また新たに被害者が3名増えてしまいました。なのでその調査も追加でお願いしたいのですが」


「いいですよ。名前と住所を教えてもらえますか?」

「一人目は田中光、埼玉県○○市在住。二人目は井上美佐、東京都○○区在住。3人目は水谷杏奈、東京都○○区……」

 3人目の名前を聞いた時、俺は頭が真っ白になってしまった。

「え?今、3人目の名前、なんて言いました?」

 俺は自分の耳が信じられず、白石さんに聞き返した。

「水谷杏奈さんです。25歳独身。都内の○○会社という所で働いている女性の方です」

「冗談だろ……」


「?どうかされましたか?」


「おい神崎?大丈夫か?ってどこ行くんだおい!」


 3人目の被害者の名前を聞かされて、俺はいつの間にか走っていた。水谷が住むアパートへ向かって。




 神崎が、突然坂口の家から走って出ていき、部屋には高木だけが取り残された。

「神崎さん、どうかされたんですか?」

「血相変えて部屋から飛び出していきましたよ。水谷って名前を聞いた途端に様子がおかしくなったな。……あ、思い出した。その人、アイツの前いた会社の同僚だ」

「そうだったんですか。それは心配でしょうね」


「あ、後もう一つ言わなければならないことがありました」

 白石はそう言った。高木が聞き返す。

「何です?」

「病院に入院している被害者の望月さんですが、医者から聞き取りの許可が下りましたよ」

「そうですか。今からでも大丈夫ですかね?」

「大丈夫だと思いますよ」

「分かりました。また何か新しい情報がわかったら連絡してください」

「はい、ありがとうございます。では」

 そこで白石と高木の通話は終わった。


 白石との会話が終わると、高木は次に東雲に電話をかけることにした。

「お疲れ様です。高木です」

「どうかしましたか?」

「今妖怪が絡んでいると思われる行方不明事件の捜査をしているのですが、一つ目で4本の腕を持つ妖怪について、東雲さんは何か心当たりはありませんか?」

「一つ目に4本の腕……。ごめんなさい、それらしい妖怪は覚えていませんね。サイトで調べましたか?」

「調べましたが、自分が見れるレベルのページには載っていませんでした」

「そうですか。もしかしてその事件、白石さんから依頼された事件ですか?」

「そうですけど、東雲さんも同じ依頼を頼まれましたか?」

「えぇ、白石さんは私の所にも来て、その事件の話をしてくれました。私が依頼されたのは、もし妖怪が犯人だった時の、除霊のほうでしたが」

「そうでしたか。では、東雲さんも望月という大学生のボイスレコーダーは聞きましたか?」

「はい、聞きました。問題の妖怪は田代さんと竜崎さんのことを知っているようですね。はてさて、どこからそんな情報を仕入れているのか……。霊能力者を殺すことが目的でそんな質問をしているんですかね。もしかして、私のことも聞いていたりして」

「その可能性はありそうですね。田代さんや東雲さんを倒せる妖怪がいるとはとても思えませんけどね。あと、癪だけど竜崎も」

「私はともかく、確かにあの二人が負ける姿は想像できませんね」


 東雲は少し笑いながらそう言った。

「事件の捜査は順調ですか?」

「まぁぼちぼちってところです。でも、さっき白石さんから新しい被害者が増えたという連絡があって、その中に神崎の知り合いがいるみたいで。その連絡を聞いた途端、アイツ何処かへ向かって飛び出して行っちゃいました」

「そうなんですか。神崎さんの知り合いの方が無事だといいのですが……」

「そうですね……」

「妖怪は私の方でも調べておきます。もしかしたら消息不明扱いになった妖怪に同じ特徴の者がいるかもしれません」

「お願いします。では、失礼します」


 高木はそう言って電話を切った。

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