【03】愚かな青春②
「美樹がいなくなった……?」
先に反応したのは藤原だった。藤原にとって、飯田美樹は高校時代からの友人で、親友ともいえる存在だった。
その親友がいなくなったのだ。
「2階にある手術室で変な物音がして、二人でその部屋を調べていたら、いつの間にか飯田さんがいなくなっていたんだ。2階にある部屋を全部探してみたけど、どこにもいなかった。もしかしたら1階にいるのかもと思って来てみたんだけど、二人は見ていない?」
「俺達はここら辺にある部屋を探索していたけど、誰かが来る音はしなかったな」
「わかった。僕は鈴木君達にも伝えに行くから、二人は美樹さんを探してほしい」
そう言って坂口は再び走って行った。
それから、望月と藤原は1階にある部屋を一つ一つ見て回り、そのまま2階へと探索に赴いた。
「これだけ探しても見つからないなんて、一体どこにいったんだろう美樹……」
「そもそもどうしていなくなったんだろう?」
「……わかんない。坂口君に声もかけずに何処かに行くなんて美樹じゃ考えられないし。やっぱりこの病院何かいるんじゃない……?」
「何かって?」
「……お化けとか」
「そんなバカな」
「だったら美樹は一体何処に……?」
藤原がそう言って望月の方を見た時だった。
彼女の目に、何かが映った。
望月の後ろ、長い廊下の向こうに人影が見える。
窓から差し込む月明かりしかないためはっきりとは見えない。
藤原が手に持った懐中電灯を、その何かが見えた方へ向ける。
懐中電灯のLEDに照らされたのは、人間だった。体格から見ておそらく男性だろう。
黒いジャンパーを着こみ、手には棒のようなものを持っている。
あれは金属バットだ。よく見るとバットの先に血のような物が付着している。
「……ねぇ、あれ」
藤原が指をさしながら望月に呼びかける。
ここで、望月もその男を視界に捉えた。
男の顔は見ることができなかった。
なぜなら、仮面をつけていたからだ。
不気味に笑う顔をした、白い仮面のせいで顔全体が隠れている。
その、男と思われる者の姿を見て、二人の背筋が凍った。
これは推測でしかないが、確かな確信を持って言える。
飯田美樹はアイツに襲われたのだ。
鈍器を持った男が動く。
一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
その動きを見て、様々な考えを巡らせていた望月の思考が一つの行動を導き出した。
「走れ!!!」
望月はそう叫んで、藤原の手を強く引っ張り廊下を駆け抜けた。
一瞬驚いた様子を見せた藤原も、手を握ってきた望月の表情を見て状況を理解した。
あの男に近づかれてはいけない。
あの男に捕まってはいけない。
多分、彼は私達を殺そうとしているのだと。
覆面の男から逃れるため、望月と藤原は必至で走った。
何処へ逃げたらいいかはわからなかったが、とにかく病院から出るため階段を駆け下りた。
階段を下りる時、すぐ後ろまで男が迫って来ているのが分かった。
望月だけなら逃げるのは容易だったかもしれないが、走る速さを藤原に合わせているためどうしても逃げるのが遅れる。
それでも、望月は彼女の手を放そうとはしなかった。
もしもの時は、自分が男につかみかかるでもして、藤原さんだけでも逃がそう。
彼はそこまで考えていた。
一階へと駆け下り、廊下を走っている時、前方によく知っている顔が見えた。
坂口だ。
「二人とも、こっちだ!!!」
坂口はそういうと、一階にあった部屋の中へと二人を誘導した。
何故彼が部屋の中へ誘導しているのか、望月はわからなかった。
しかし、彼の緊迫した表情と、大学での彼の理性的な印象から、この状況でそれが最も正しい行動なのだろうと確信した。
おそらく、彼も覆面姿の男の存在を知っていて、彼から逃げるためにその部屋を使っているのだろう。
もしかしたら、健一や和泉と合流して、部屋の中にバリケードを建てているのかもしれない。
望月はそう思って、藤原と共にその部屋に入った。
その瞬間、望月の頭に激痛が走った。
望月は激痛のせいで意識を失い、その場に倒れ込んだ。
「望月君!?」
それに呼応して、藤原の叫び声が聞こえた。
彼が意識を失う直前わかったことは、自分が誰かから、固い物で頭を叩かれたこと、部屋の中に望月を追っていた男と同じ覆面をした人間が何人もいたことだけだった。
そして、彼の意識は途絶えた。
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