【08】

 初めまして、僕の名前は長岡慎二です。

 これから話すのはある男の子のお話です。

 とある家族がいました。

 女手一つで子供を育てる母親と、その息子です。

 父親は子供が3歳の時に事故で亡くなってしまい、それからは母子家庭でした。

 父が死んだことは悲しい事でしたが、なんとか踏ん張って、母親は仕事をしながら息子を育てました。

 裕福な暮らしは出来ませんが、幸せに生活していたそうです。


 しかし、息子が高校生になった時、状況は一変してしまいました。

 彼は入学した高校でいじめに遭うようになってしまったのです。

 きっかけは、高校で開催された体育祭です。

 息子さんの名前をN君としましょう。

 N君は体育祭のクラス代表選で、サッカーをすることになりました。

 彼はスポーツがあまり得意ではなく、3つあるうちの種目で、サッカーが一番マシだったから選ばれました。

 しかし、試合本番で、ミスを連発してしまい、そのせいでクラスは負けてしまいました。

 そのせいで、クラスのサッカー部の人達から目をつけられてしまったのです。


 始めは軽い嫌がらせでした。

 休み時間に体育祭のことでヤジを飛ばす、授業中に先生にばれないよう物を投げつける、とか。

 N君はそれらを無視することに努めました。それが返っていじめっ子達の反感を買うようになりました。

 外が肌寒くなって来た頃、彼らはもっと直接的な方法でN君をいじめるようになっていました。


 下駄箱の靴を隠したり、授業が始まる前にN君をトイレの個室に閉じ込めたりと、さまざまです。

 持っているお金を奪われることもありました。

 N君には友達が数人いたのですが、いじめっ子達の行動のせいでN君に話しかけることができなくなりました。

 だってそうでしょう?もしN君にかまったりすると、今度はいじめの標的が自分にも向いてしまうかもしれない。そう考えるのが自然ですよね。


 そういうわけで、N君は学校で孤独になってしまいました。

 N君はそのことを母親に言えずにいました。ただでさえ、仕事で疲れている母にこれ以上心配事を掛けたくないという彼なりの気遣いのせいでした。

 幸にも、その高校は2年生に進級するときにクラス替えがあるのでした。

 N君は進級してサッカー部の連中とクラスが変わるまで、いじめを耐えることにしました。


 それだけを心の支えにして。

 しかし、現実は残酷でした。


 クラス替えの結果、友人達とは違うクラスになり、問題のサッカー部の人達とは同じクラスになってしまったのです。


 N君は神様を呪いました。

 自分が一体何をしたというのだ!

 そんな気持ちだったのでしょう。

 担任の先生にいじめの相談をしようか悩みましたが、先生に相談すればそのことを母親に言われてしまう。そうしたら母さんに悲しい思いをさせてしまう。

 そう思うと、いじめの相談を行うこともできませんでした。


 そうして一人で思い悩んだ結果、N君は高校の屋上から飛び降り自殺をしてしまったのです。


 学園祭が始まる1週間前でした。


 本当に悲しい話ですよね。


 もし、いじめがなければ、N君は友人たちとその学園祭を楽しむことができたでしょうに。

 ですが、その学園祭で事件があったのです。

 新聞部ではその日、学校の怪談を話して記事にするという企画がありました。

 7人の語り部が怪談を話すと、最後に幽霊が現れるという学校の七不思議です。


 そこに、自殺したN君が現れたのです。

 N君は自分をいじめたサッカー部の人達を恨んでいました。

 その強い怨念が幽霊となってこの世に残ったのです。

 さらに、その怨念に引き寄せられて、様々な幽霊がN君の元へ集まりました。

 もはやN君の意識はN君だけの物ではなくなっていました。


 様々な恨みを持つ幽霊達、彼らは『恨みを晴らす』という共通目的を持った塊として存在していました。

 そうした集合体が、新聞部の部室に現れたのです。

 N君は部室にいた生徒達を取り込み、さらに大きな集合体になりました。

 力を得た彼らはまず、いじめっ子達を一人残らず殺しました。


 そして、それを阻止しようとした霊能力者達のことも、次々と殺しました。

 さらに大きな存在になった彼らは、日本中にいる、『彼ら』が恨んだ対象の人間を襲いました。

 目的を達成したN君達は、恨みの対象と同じ行動をしていた人達、ここではN君をいじめたサッカー部がわかりやすいですね、つまりいじめを行っている人達を無差別に襲うようになりました。

 それを繰り返し、N君達は『妖怪』として200年先の未来まで恐れられる存在となりました。


 これで、僕の話は終わりです。


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