【03】

 依頼日当日の土曜日、午後5時に俺は上村高校の校門前に着いた。

 文化祭が開催されているためなのか、午後5時だというのに校内には多くの人達が行き交っていた。

 人混みの中で私服を着た若者が多く目に映る。恐らく他高の生徒だろう。


 スーツ用のワイシャツ姿の自分は浮いてしまいそうだ。いや、もしかしたら教員だと勘違いされるかもしれない。

 校門前でしばらく待っていると依頼主の指原美鈴がやって来た。


「すいません、クラスの出し物が長引いちゃって遅れました。待ちましたか?」

「いや、さっき来たばかりだから大丈夫ですよ」

「よかった、今日はよろしくお願いします」

「怪談はどこで話すのですか?」

「新聞部の部室です。案内します」

 そう言うと彼女は校内へ歩き出した。


「探偵さんって普段どんな仕事をしているんですか?」

 新聞部の部室へ向かう途中、彼女が聞いてきた。

「仕事ですか……。迷いネコ探しとか浮気調査とか、あまり褒められた仕事じゃないですね。あとはこういうオカルト関係の依頼も来たらやりますね」

 質問に答えながら、俺は高木に初めて会った時のことを思い出した。


 あの時俺も彼女と同じような質問をした記憶がある。高木もきっと今の俺と同じ心情だったのだろう。


「私以外にもそういう依頼をする人っているんですね。あの、今更なんですけど神崎さんって幽霊が見えたりってするんですか?」

「えぇ、見えるには見えますよ」

「どんな風に見えるんですか?」

「うーん、ぼんやり霧がかかったように見える、という感じですかね」

「すごい、じゃあ本当にいるんだ。幽霊って」


 華やかな装飾の施された出店の数々を抜けて程なく、新聞部の部室に到着した。

 部室の戸を開けると、中には既に生徒達が集まっていた。


「皆さん、お待たせしました。本日の七不思議の証人になっていただく、探偵の神崎さんです」

 指原さんに紹介され、俺は小さくお辞儀をした。

「探偵?え~すごーい、かっこいい!」

 文化祭のために化粧をしているであろう女子高校生にからかわれたが、笑顔を浮かべてやり過ごした。


「まだ来ていない方はいますか?」

 指原さんが部屋の中にいる生徒達を見ながら話した。

「遠藤がまだ来てないよ~」

 何かスポーツをやっていそうな短髪の男子生徒が答えた。

「え?本当だ……。早めに来てって言ったのに」

「クラスの仕事が終わらないんじゃない?」

 指原さんは考える素振りをしている。

「別にいいんじゃない?先に始めてても。私この後予定あるし」

 さっき俺をからかってきた女子生徒が言った。

「仕方ありません。先に始めることにしましょう」


 指原さんが部室の真ん中に生徒が使う学習机を一つ置き、机の上に蝋燭ろうそくを7本立てて火を灯した。

 俺達はその机を囲む形で椅子を置いてそれぞれ席に着いた。

 全員が席に着くのを確認してから指原さんが部屋の電気を消した。

 部室の窓からは夕日の光が差し込んでおり、夕日に似たオレンジ色の小さな光が机の上に浮かんでいる。


「本日は、新聞部部長のお誘いで集まっていただいてありがとうございます。この会を仕切る2年5組の指原美鈴です。よろしくお願いします」

 彼女はそう言うと、ぺこりと頭を下げた。

「ご存じの方が多いとは思いますが、改めて今回の七不思議についての説明をします。夕方の5時以降、同室内で生徒7人が一人ずつ順番にこの学校にまつわる怪談を話すと、7人目が話し終えた後、幽霊が現れるという内容です。幽霊が現れたかどうかは、霊感がある神崎さんが判断してくれます。では、始めましょう」


 こうして、上村高校の七不思議の実証が始まった。

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