【02】

「おい!だから洗濯物を部屋に溜めるなって何度言ったらわかるんだ!?」

「うるせぇなぁ。お前は俺の母親かよ」

 東雲さんと映画を見に行った4日後、俺は高木の部屋で説教していた。


「言われたくなかったらやることやれ。ていうか、お前何日風呂に入ってないんだ?」

「あ?さぁ、……3日ぐらい?」

 道理で部屋が臭いわけだ。こいつは身体を洗わないで気持ち悪くないのか?


 俺が鼻をつまみながら高木の部屋に散らかっている衣服を拾っていると、事務所のチャイムが鳴った。

 誰か訪ねてきたようだ。


「お前は部屋から出るなよ。臭いから」

「はいはい」

 俺は手に持っていた洗濯物を高木の部屋に投げ捨て、急いで玄関に向かった。


「すいません!お待たせしました」

 俺はそう言いながら玄関のドアを開けた。

 ドアの向こうにいたのは、学生服姿の女の子だった。


「あの、心霊現象の相談を受け付けるってネットで知ったのですが……」




「どうぞ」

 俺は、事務所の古臭いソファーに座っている女の子に紅茶のカップを差し出した。

 女の子はぺこりと小さくお辞儀をした。

「学生の方ですか?」

「はい、上村高校に通ってます。」


 聞いたことのある高校名だった。ここからそれなりに近い高校だ。

「なんでまた、こんな所に来たんですか?」

「こんな所……?」


 やべっ!口が滑った。

「失礼……。なぜ、うちの事務所に?」

 一応、インターネットにもこの探偵事務所のサイトはある。

 といっても、仕事がなくあまりにも暇な俺が、手探りで作ったサイトだから、お世辞にも出来がいいとは言えない。


「実はお願いしたいことがあって……」

「お願い?」


「来週の土曜日、私たちの学校で学園祭があるんです。私、新聞部に所属しているんですが、部の企画でその日に怪談をすることになったんです。それでその怪談の証人になってもらいたくて……」


「証人というのは?」

「私たちの学校では、学校の七不思議みたいなものが噂されてて、その一つに、校内で7人が怪談を話すと幽霊が現れるっていう噂があるんです」

「……つまりもし幽霊が現れた時、僕が証人になれ、という話ですか?」

「そうです。ダメでしょうか?」

「いや、ダメではないですが……」


 正直、断る理由など何もない。どうせ他に依頼などないのだから。

 とはいっても、学校の七不思議?

 7人が怖い話をするだけで幽霊が現れるだろうか?高木に相談した方がいいだろうか。

「もう一人の者と相談するので、少し待っていてください」

 俺は女子高校生にそう告げ、高木の部屋へ向かった。


「なぁ高木、今、上村高校の女子生徒が依頼をしに来ているんだが」

 高木は青白く輝くモニターをぼんやりと眺めていた。

「女子高生?何の依頼だよ、彼氏の浮気調査とか?」

「違う。彼女が所属している新聞部で学校の七不思議を企画しているらしいんだが、俺達にその調査をしてほしいそうだ」

「七不思議って?」


 高木がモニターから目を離し、こちらを振り向く。

「さぁ、よくわからないが7人の人間が学校内で怪談を話すと幽霊が現れるらしい」

「なんだそりゃ」

「怖い話をしている人に幽霊が寄ってくる、なんて話は聞いたことがあるがそんなこと本当にあるのか?」

「話してる内容なんて関係ねぇよ。幽霊になるほど強い思いなんて恨みがほとんどだから、もし幽霊が集まったんならそいつがいろんな奴に恨まれてたってだけの話だ」

「そうなると、七不思議で幽霊なんて集まらないか。どうする?断るか?」


「うーん。あ、いや待てよ。そういえば前に、どこかのオカルトサークルが幽霊に来てほしいって強い思いで念じ続けたら、その思いにつられて本当にそこら辺にいた幽霊が引き寄せられたって東雲さんが言っていたような……」

「どっちだよ」

「まぁいいんじゃないか、付き合ってやっても。どうせ暇なんだし」

 それに関しては同意見だ。


 高木への確認が終わり俺は女子高生の元へと戻った。

「お待たせしました。証人の件は了解しました」

「じゃあ引き受けてくれるんですね!ありがとうございます!」

「はい。そういえばお名前を伺っていませんでしたね」

「あ、上村高校2年生の指原美鈴さしはらみれいです」

「指原さん。高木探偵事務所の神崎です。当日はよろしくお願いします」


 来週の土曜日、上村高校の校門前に午後5時集合と約束し、指原さんは事務所を出て行った。

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