『呪いの人形!?』編

【01】

 社に封印されていた怪異の事件から3か月が経った。

 東京都内某所にあるビルの一室、高木探偵事務所で、俺は暇を持て余して頬杖をついていた。

 霊能力者、高木圭が運営する事務所に配属されてから3か月、依頼という依頼はほとんど来ていない。

 以前、俺が高木に、仕事は何をしているのか聞いたとき、

 「仕事といえるかわからないが探偵をしている」と言っていたが、あれは嘘だ。こんなに暇なのに仕事とは言えない。


 では、高木は何をしているのかというと、何もしていないという他なかった。

 昼間の2時か3時ごろ目覚め、自分の部屋の中でずっとゲームをしている。

 朝方までやった後は眠り、また昼に起きる。ほとんどニートと大差がない。


 一方の俺はというと、部屋の掃除、炊事、洗濯などの雑用。

 探偵の助手というより、家政婦といった方が似つかわしい。

 一人暮らしの時もある程度の家事はこなしていたので、それ程苦ではなかった。

 それでも暇になった時は、事務所に置いてあるテレビで映画を見ていた。


 仕事が全くないのに二人の収入は大丈夫なのかと疑問になるが、事務所の銀行口座には毎月一定のお金が送金されていた。

 詳しい資金の出どころはわかっていない。

 この事務所で働き始めた時、金が送金されていたことに驚いて、高木を問いただしたことがある。


「あの金は、霊媒師が食事に困らなくていいようにするための金だよ。有能な霊媒師が無一文で餓死したらもったいないだろ?それに、いざお祓いが必要って時に霊媒師が他の仕事で忙しかったら、もしもの時困るだろ」


「なるほど、確かにそれは一理ある。でも霊媒でお金をもらえばいいんじゃないのか?」


「こっちから金を要求することはダメなことになっている。金が無いと祓わん!なんて霊媒師が出てきかねないからな。もしお祓いに高額な請求をする奴がいたら、そいつは偽物だろう。依頼主がどうしても受け取ってくれと言って渡して来たら受け取らないこともないが」


 俺としてはもう少し金が欲しいがな、と高木は付け加えた。


「何に使う?」


「女」


 それを聞いて俺は深いため息をついた。


 窓の外から見える青空を見ながら、俺は前の職場のことを考える。

 社の悪霊を祓ってもらった後、勤めていた職場に退職願を提出した。上司に理由を聞かれたが、「ほかにやりたいことができました」と告げた。


 上司や同僚などの周りの社員は、俺の退社を惜しみつつも、今までお疲れさま、と感謝の気持ちを述べていた。

 その中で、後輩の女性社員、水谷だけがやめないでください!と叫んでいた。


 その罪滅ぼしと言うわけではないが、俺は次の職場が探偵であることと、元カレの件を解決してやると水谷に持ち掛けた。彼女は喜んで依頼した。


 以前付き合っていた彼氏にストーカー行為を受けているという話は以前から聞いていたので、水谷の住んでいる家の近くで張り込みをすることにした。

 水谷には、留守中あえて玄関の鍵を開けておくように、と言っておいた。


 張り込みをしていると、すぐに不審な男性が玄関を調べ部屋に侵入するという場面に出くわした。

 俺はその一部始終を携帯のカメラに録画し、顔写真も撮ることに成功する。


 そこから先は簡単であった。今度は高木を連れて張り込む。

 性懲りもなく再び水谷宅を訪れた男性に、高木が大声で怒鳴りつけた。


「てめぇ誰の女に手出してんだコラァ!!!」


 あれが探偵兼霊媒師の顔だろうか。傍から見たら美人局をしている暴力団員にしか見えない。

 高木は俺が撮った写真を男性に見せつけ、「二度と水谷に関わるんじゃねぇぞ。次やったら警察に突き出すからな」と言い放った。

 男性は涙ぐみながらごめんなさい、ごめんなさいと何度もつぶやいていた。


 それ以来、男性が近づくことはなくなったと、水谷は言っていた。


 思えば、探偵らしい仕事はあれっきりしていないな。そう思いながら神崎は身体を椅子の背もたれに預けた。

 天井の染みを意味なく眺めていると、電話が鳴った。事務所に備え付けられている固定電話だの音だ。


「おーい、電話なってんぞ~、神崎くーん」


 隣の部屋から高木の声が聞こえた。


「はいはい、聞こえていますよ」


 また保険会社のセールスかな。俺はそう予想しながら受話器を取る。


「はい、高木探偵事務所です。……はい、そういった相談も受け付けています。……え、人形が動く?」

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