【05】高木探偵事務所にて
「汚いですけど楽にしてください」
山城神社を後にした俺と高木は、話を整理するために高木が運営する探偵事務所に足を運んだ。
お世辞にもきれいとは言い難い事務所の部屋の中央にあるソファーに俺は腰を下ろした。
町田さんが自殺したと聞いたときは驚いた。しかし、ここに向かう途中、なんとなく理由が想像できた。
俺が相談した心霊現象。おそらくそれが町田さんを自殺に追い込んだ原因なのだ。
俺が住むあの部屋には、302号室には、やはり何かいるのだ。
高木は事務所に入ると、自分の机であろう場所に座り、すぐにもらった封筒を開いた。
しばらく黙ったまま手紙を読んでいたが、次第に表情が曇っていく。
「何が書いてあるんですか?」
俺が話しかけると高木は無言で手紙を差し出してきた。
高木さんへ。
私が正気でいるうちにこれを記しておきます。
私が感じた限り、神崎さんの部屋にいるものは奇妙です。
松下家での除霊の時と似たようなものを感じます。
東雲さんにお願いした方がいいかもしれません。
……着物を着た女性が見えたら、お経が聞こえたら、お山が見えたら、男が切られたら
赤子を食べたら瞳が見えたら
お逃げください
部屋で、待っています。
最後の一行を読んだ時、俺は背筋が凍り付いた。
「なんなんですかこれ?」
「町田さんがあなたの住む部屋に行った後、感じたものなんでしょうね」
着物姿の女性、お経、山、男、赤子。これが何を意味するのか、俺には見当もつかない。
最後の、部屋で待っている、というのは?俺の部屋に何が待っているというのだ?
「高木さんにはこれがわかるんですか?」
「何となく。おそらく手紙の後半に書かれていることが起きると、やばいんでしょうね」
「やばい、というのは?」
「多分、死にます」
高木が真顔で言っていることがひどく冗談のように聞こえた。
ありえない。幽霊が人を殺す?どうやって?
そもそも、幽霊などというものが現実に存在するというのが理解できない。
しかし、町田さんの自殺とこの手紙が無関係だとは思えない。
「高木さん、いったい何が起きているんですか?」
「これ以上は知らないほうがいい。これは意地悪で言っているんじゃない。あなたの生死にかかわる問題です。中途半端な知識では町田さんの二の舞になってしまう」
「中途半端?」
「えぇ」
そういうと、高木は携帯電話を取り出し、誰かに電話を掛け始めた。
「ちょっと失礼」
しばらくした後、相手が電話に出たようだ。
「お疲れ様です。高木です。昨日相談した件ですが、あまりよくないほうに転がってしまいました。はい、町田が首吊って自殺しました、変な手紙付きで。……特定の音や風景、人物を見たら逃げろというものです。手紙に書いてあるのは、着物姿の女性、男、赤ん坊。山、お経です。……一応これから問題の部屋を見に行こうと思います。……やばかったらすぐ逃げます。東雲さんはこちらには来れますか?わかりました。では、失礼します」
電話を切り、高木が軽くため息をした。
「今のは?」
「まぁ、自分の師匠みたいな人です。ちょっとミステリアスな人ですけど、俺より除霊の腕は何倍も上のすごい人です」
一呼吸おいて高木が切り出す。
「さっきの話に戻りますが、神崎さん、あなたの部屋にいると思われる悪霊はかなり危険です。悪霊っていうのは、人の恐怖心とか不安な気持ちを利用して害を及ぼすんですよ。だから……」
「だから、余計な詮索はするな、ということですか?」
「平たく言えばそうです」
あくまで冷静に、高木は言い放つ。
「……わかりました」
俺の反応を確認すると、高木は席を立った。
「これから僕の部屋に行くんですか?」
「はい」
「僕もついて行っていいですか?」
「俺の話聞いてました?」
「町田さんが死んだのは、怪異のせいだとしても、俺が相談したからなんです。このまま何も知らないまま解決しても、町田さんに申し訳ないんです!」
「……怖い思いしても知りませんよ?」
「覚悟しています」
かくして、俺と高木は事務所を出て怪異が待つ302号室へと向かった。
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