【03】怪奇現象?
葬式から戻った後、部屋の近くで奇妙なことが起こっている。
築20年5階建てのアパート。俺はそこの3階、302号室に住んでいる。
最初は深夜に廊下から足音が聞こえるというものだった。それも毎日同じ時間に。
同じ階の住人が歩いているのだろうと初めは思っていたが、何日かして、足音が聞こえるだけで部屋のドアを開ける音がしないことに気が付いた。
足音がし始めた1週間後くらいに、部屋の窓をこんこん、と叩く音が聞こえるようになった。
これは廊下から足音がする1時間程度後に数回聞こえるというものだ。
だが俺は3階の部屋に住んでおり、音の聞こえる窓は地上から4メートルくらい高さがある。つまり、誰かが棒のようなもので窓を叩いていることになる。
廊下の足音はまだ許容できたが、窓のノック音には恐怖を覚えた。
当然だろう、廊下の足音は他の部屋の住人によるものでも不思議ではないが、窓のノック音は常識的には考えられない異音だ。
深夜にいったい誰がそんないたずらをするというのだろうか?
試しに、ノック音がした直後に窓を開けて外を確認したことがあるが、地上には誰もいなかった。
警察に相談しようか迷ったが、実害を被ったわけではないため、まずは不動産屋に連絡をとることにした。
担当する社員は真面目だったため、すぐに大家に相談し、ほかの居住者にも騒音がないか確認を取ってくれるとのことだった。
不動産屋に相談をした二日後、社員から電話があった。
「同じ3階の方や他の階の方にお聞きしてみたのですが、どなたも騒音について心当たりがないとのことでした」
彼曰く、俺と同じ3階に住んでいる居住者は誰一人として、廊下の足音を聞いた覚えがないという。
窓ガラスの音も同様だ。
そうなると、この音の主は俺一人に対して聞こえるようにしていることになる。ストーカーだろうか。
女性ならまだしも、独身男性の俺を誰がストーキングするというのだろうか?
被害を訴えているのが俺一人であったため、特に対策が取られないまま話は流れてしまった。
その後も、音は同じ時刻に聞こえ続けており、俺は警察にストーカー被害に悩まされていると相談した。
相談の結果、部屋の前に小型の監視カメラを設置することになった。
だが、足音がする時間帯、監視カメラには何も映ることはなくしばらくするとカメラは壊れてしまった。
カメラが壊れ始めてから、異変は部屋の中でも起こるようになった。
まず、足音が玄関に続く廊下でも聞こえるようになった。これは、俺がトイレに入っているときや、食事の支度をしているときなど、廊下が見えない時に聞こえる。
皿がよく割れるようになった。
コップを机に置いていたはずなのに席に戻った時、床に落ち、割れていた。
朝、食器を取り出そうと棚を開けるとその中のどれかが割れている。
夜、目を閉じると人の気配を感じる。耳を凝らすと人の息遣いが微かに聞こえ、寒気がする。
もし何かがいたら、と考えると怖くて、目を開けることができない。なので絶対に目を開けないよう目蓋に力が入り眠ることができない。
この時点で、睡眠不足のせいか、食欲もなくなり、会社を休むことが増えてしまった。
警察にもう一度相談しようと思ったが、前に相談したときにはカメラを設置したが何も映ってはいなかった。しかもそのカメラは壊れてしまって、取りに来た警察官は見るからに嫌そうな顔をしていた。
それに、部屋の怪奇現象を警察に相談したとして、どうなるのだろう?
皿が勝手に割れたり、足音が聞こえたり、寝ているときに気配を感じる、これらは警察にどうこうできる話ではない。相談した所で、精神科の受診を勧められるのが関の山だ。
しかし、怪奇現象は止む気配がない。
他に頼るところといえば……。
「それで、ダメ元でこちらに相談に来たということですか?」
中年の男性は俺にそう言ってきた。
「はい……。もう頼るところがここしかなくなってしまって」
警察や不動産会社を頼っても解決できなかった俺は、地元の神社に足を運んだ。
インターネットでお祓いについて調べて、この神社、山城神社の存在を知った。
この神社では人形供養、地鎮祭などのお祓いを行っている神社で、個人のお祓いの相談も受け付けているとのことだった。
「わかりました。一度問題のお部屋を見させていただきます。その後、必要と判断されれば、お祓いを行わせていただきます」
神主は町田という男性で、気のいいおじさんという印象だった。
相談してすぐに、俺は神主を連れて自室のアパートへと向かった。
怪奇現象のせいで気が滅入っているせいで、部屋の掃除はほとんどできておらず、部屋にはごみが散乱している。
「すいません。汚いと思いますけど」
「いいえ、悩んでいらっしゃるのですから当然ですよ」
汚部屋に人を招く後ろめたさを感じつつ、俺は玄関のドアを開けた。
ドアを開けると、換気されていない湿った空気が鼻にかかる。
そのまま部屋の中に入り、リビングへと向かった。
「どうでしょうか?」
「確かに暗い感じがしますが、幽霊の気配は感じませんね」
「そうですか……」
「ほかの部屋を見せていただいてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
といっても、一人暮らし用のワンルームなので、部屋といってもあるのは洗面台がある浴室とトイレくらいのものだ。
町田さんは2つの部屋を一通り見てまたリビングへと戻った。
「足音がするのはそこのあたりですか?」
町田さんはそういうとリビングに繋がっている廊下を指さした。
「えぇ、そうです。それから寝ているときに人の気配もそのあたりから感じます」
「そうですか……。うーん」
「どうかしましたか?」
「確かに嫌な感じがしますね。そこの廊下は」
「嫌な感じ?何か見えるんですか」
「いえ、特に見えるわけではないのですが、何か気持ちが悪いというか」
神主は場を清めるために、事前に用意したお酒を家の周りに散らし、玄関の前に盛り塩を置いた。
「気休めですが、ないよりはマシなので」
そう言った神主の表情は少し不安そうだった。
その後、帰り際神主はこんなことを言い始めた。
「神崎さん。大変恐縮ですが今までに誰かを好きになったこと、もしくは好かれたことはありますか?」
「え?それはどういう…?」
「幽霊は見えなかったのですが、この部屋の不快感に覚えがありまして。どうですか?」
彼の真剣な表情から、冗談を言っているわけではないようだ。
高橋理恵の屈託のない笑顔がすぐに頭に浮かんだ。慌てて考えるのをやめる。
「いいえ、特には」
「そうですか……」
しばらく沈黙した後、神主が口を開けた。
「知り合いに、私よりも霊感の強い者がいます。彼にも相談してみようと思います」
その知り合いと連絡が取れるよう、俺は電話番号を聞かれた。
それから3日後、見知らぬ番号から電話がかかってきたのだった。
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