緋緋サーベル
「それが緋緋色金かい?」
「ええ、リーダー。美しいでしょ?」
クランのラウンジで京子が三島鍛冶店でサーベルとして拵えてもらった緋緋色金を細身長身の男性に見せつける。
彼は『明日への栄光』の序列一位、羅島皇道《らじま こうどう》。階級は高之五であり、現役では最強の部類に入るハイランダーである。
「緋緋色金の能力は一体何だったんだい?」
そんな彼も初めて見る魔法金属には興味津々のようで、京子に緋緋色金の特殊な能力について尋ねた。
魔法金属は例外なく稀有な能力を持っているため、いずれは自身が手に入れた時のことを考えて知識として知っておきたいと思うのはハイランダーとして間違いではない。
「軽いです」
「……? それだけかい?」
「そうです」
シンプルな答えが返ってきて、皇道はなんとも言えない表情を作り出す。
利点をあまり見いだせていないであろう彼に対して、京子はスッとサーベルを抜き身のまま渡す。
皇道は京子の突然の行動に疑問を覚えるも、遠慮なくそれを受け取って構える。
「なるほど、そういうことか」
皇道は軽いと言った彼女の言葉の意味が分かった。とにかく普通の刃と変わらぬ厚さなのに異常に軽いのだ。これならば楽に振り回せて手数が増える。
皇道はこの武器が非常に気に入ってしまった。
「京子、いくらで譲ってくれる?」
皇道ならそう言うだろうなと確信していた京子は、大きく身振りをしながら腕でバツ印を作り。
「ダメでーす。それは私のワンオフ品です」
「ならば、ひょっとこ君とやらに次に緋緋色金を売ってくれるように頼んでくれ」
「それはBtubeの件の進行具合に寄るんじゃないかなぁ~」
京子の発言を聞いて事務員にキビキビと指示を飛ばしだした皇道を見て、京子は現金なリーダーだなぁと返却されたサーベルを磨きながら思った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
オッサンからの連絡を受けて、心配事は消え去ったと言われた俺は無事に帰宅ができた。
徹夜をしたせいで酷く眠い、和室に投げ捨てられている寝袋に包まって睡眠体制に入る。
集会所で軽食を食べる事も出来たが、食べたら眠りそうだったので避けた。帰りがけに美月がおにぎりを握ってくれたので寝袋の中で齧りながら、眠気が来るまでノートパソコンでダンジョンに関するニューストピックを調べる。
大きな話題は二つ。『明日への栄光』の出雲ダンジョン攻略と滋賀県の安土ダンジョンでの死傷者の増加についてだ。
安土ダンジョンは十八階層建ての入り口から登っていくタイプのダンジョンだそうで、ダンジョン内の内装は戦国時代の城風らしく、ハイランダーの最高到達階層は八階だがおそらくボスは織田信長に類する何かだろうと推測されている。
二階ごとに信長の忠臣の幻影がフロアボスとして待ち受けているとのことなので、大きなズレはない推測だと俺も思う。
深度は拾《じゅう》。文句なしの国内最難易度ダンジョンである。
「くぁ……。そろそろ寝るか……」
ネットサーフィンをしているといい感じに眠気が来たので、パソコンをスリープにして寝袋に潜り込む。お休み。
仮眠を取って外を眺めると真っ暗になっていた。時計を見ると二十一時半過ぎ、眠ったのが十四時ぐらいなので、なかなか健康的な睡眠時間。
お腹が空いたので冷蔵庫の中を見る。オッサンとこで買った虹キャベツの残りと卵が数個、後はツインヘッドの牛肉か。牛キャベ卵炒めにしよう。
冷蔵庫から材料を取り出して包丁を握った時、滅多にならないであろう俺の家の固定電話がジリリジリリと鳴った。
あまりの間の悪さに辟易とする。だが俺に電話をかけてくるのはオッサンか美月か三島の爺の三人しかいないので、危なくないように包丁を丁寧に置いて受話器を取る。
「俺じゃい」
『おはようさん。よく眠れたか?』
電話口から聞こえてきたのは耳島のオッサンの声だった。
「そりゃもうぐっすりよ。徹夜だったからな」
『がっはっは、そうかそうかお疲れさん。急で悪いが俺のとこ来れるか? 話しておきたいことがあるんだ』
「飯食ってからでいいか? お腹がぺっぺこりんなんだわ」
『美月がすき焼き作って待ってるぞ』
「秒で行く」
ガチャリと電話を切って高速で着替える。ひょっとこ面を忘れずに。
やっぱり人に作ってもらった飯が一番おいしいのだ!
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