第2話:海


 臨海学校は新潟県寺泊と言う所だった。



 私の住む北関東からバスで三時間ちょっと

 バスの中でガイドさんのお話を聞きながらレクリエーションをしていた。



『はい、それでは次の問題です。新潟は米の産地ですがそのお米を使って作った有名なお菓子は何でしょう?』



 いや、そんなコアな問題を誰が答え知ってるの!?

 普通は米の産地だから米使って作る物なんだくらいのはずなのに?



「えーと、お米だからチャーハン?」


あずさ、問題は『お菓子』って言ってるんだからなんでチャーハンなのよ?」


「え~お米って聞くとチャーハンしか思いつかないぃ~」


 隣に座ってニコニコしているあずさはそう言うけど、こんなの答え事が出来る人っているの?




「えっと、『柿さ種子』」



 誰も答えられない中、ぽつりと通路を挟んで隣に座っている桜木姫衣きいが言う。

 それを思わず私は見てしまった。



 何故そんな事知ってる!?



『はいはい、当たりです~! そう、新潟県は米どころなのでおせんべいもたくさん作ってます。特に『柿さ種子』は有名ですよねぇ~!!』



 有名なの!?

 知らないって普通は!!


 そう私が思っていると桜木姫衣きいは当たった事にうれしそうに笑う。



 どきっ!



 そのうれしそうな笑顔がやたらとまぶしく感じる。

 こんなしょーも無い問題なのに……


 でもそんな彼女の笑顔を見ているとなぜか私も心がウキウキしてくる。

 だってこの臨海学校は桜木姫衣きいと同じ班なのだから。


 

 * * * * *



「海だぁーっ!」



 海無し県の私たちにとって海は見るだけで自然とテンションが上がって来る。

 その昔お父さんに東京に連れて行ってもらったけど、高いビルとかスカイツリー見てもあまり驚かなかった。

 むしろ何もない広い水平線の方が感動すら覚える。



「海、奇麗きれいだね」


「うん、海なんて久しぶりだものね」


 同じ班になっているから桜木姫衣きいも私の横で海を見ながらそう言っている。

 頭半分は背が高い彼女は私を見下ろしながらにっこりと笑う。


「藤井さん、海好き?」


「え? 普通に好きだけど……」


 なんて事無い会話なのになんかドキドキしてきた。

 桜木姫衣きいとこうして二人っきりで話するなんて初めてかもしれない。


「私も海好き。それに今年はだからとても楽しみ」



 どきっ!!



 わ、私と一緒だから楽しみ?

 な、なんで?

 何それっ!?


 かぁ~



 顔が何故なぜか熱くなってくる。

 私はあわててそっぽを向いて言う。


「ば、バッカじゃない? 誰と一緒いっしょでも海は楽しいもんよ! き、着替えしてくる!!」



 臨海学校についてお昼を食べた後は海で水泳の授業だった。

 実際は授業と言っても海に入って遊ぶだけなのだけど、それでも今年は海に入るのは初めてだった。


 そそくさと桜木姫衣きいから離れながらあずさを引っ張って更衣室に向かう。



「あれ? 瑠香るかちゃんどうしたの? 顔赤いよ?」


「な、なんでもないっ! ほら着替えに行くよ!!」



 本当はうれしくて顔がニマニマしそうなのを我慢しているけど、早く着替えて海に入りたかった。

 


 そう、桜木姫衣きいと一緒に。

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