臨海学校

さいとう みさき

第1話:気付いた 

 私たちの学校はあのウィルス騒ぎで中止されていた臨海学校が再開される事となった。



「瑠香(るか)ちゃん、臨海学校楽しみだね!」


 親友の梓(あずさ)はそう言いながら臨海学校のしをりのページをめくる。

 本来は五年生の時の去年に行くはずだった。

 しかし長引くあのウィルスの蔓延まんえん防止で去年も一昨年も行事はほとんどが中止していた。



「ううぅ~だるぃ~。海日焼けするからいやだなぁ~」


「ちゃんと日焼け止めれば大丈夫じゃない?」



 しおりの持ち物ページをめくりながらあずさはそう言うけど、私は気付かれないように向こうを見る。

 そこには小学六年生にしては背の大きい桜木姫衣(さくらぎきい)があずさと同じく臨海学校のしをりをめくっていた。


 小学生のくせして身長が百六十センチを超えているらしい。

 ただ大きいだけならまだしも、モデルではないかと言う美貌びぼうとスタイルを持っている。


 長い黒髪はつやつやさらさら、白い肌にぱちりとしたひとみ、小さな鼻にプルルンとしそうな唇。

 胸だって大きくてちょっと激しい動きをするとれると言う、うらやましい大きさ。

 私なんかスポブラだってゆるいと言うのに!!



 ただ彼女はいつも一人でいる。


 

 何と言うか、話しかけるのがはばかれる存在。

 そのくせ性格も良くて優しい。

 

 あ、少し天然ボケは有るかな?


 このあいだも身体測定の時にブラまで外さなくていいのに思い切りブラ外して保健の先生に苦笑いされてた。



「で、スイカ割りあるんだって!」


 あずさはしおりを見ながら私にそう言う。

 経験のある人なら知っているけど、スイカ割りで割ったスイカは食べにくいし、場合によっては砂が混じっている。


 私はいやそうな顔してあずさに言う。


「スイカ割りって、最初の方で割られたら後ろの人ひまじゃん。それにその後でスイカ食べろったってぼろぼろのスイカって食べにくいじゃん!」


「え~、それが良いんだよぉ~」



 ほんと、くだらない。

 十二歳にもなってそんな事ではしゃぐ気にはならない。

 ほんとお子様なんだから……



 ちらりと桜木姫衣きいを見るとしおりを開きながらぼぉ~っとしている。

 そんな彼女だけどその姿は何となく様になっている。



淑女しゅくじょかぁ……」



「ん? 何か言った??」


「何でもない! ほら次は家庭科だよ。部屋移動だよ!!」


 私は立ち上がりながら家から持ってきた食材とエプロンを持ち家庭科室に移動するのだった。



 * * * * *



「素晴らしいですね、桜木さん!」



 新人教師の那奈(なな)ちゃんが桜木姫衣きいのグループのカレーを見てそう言っている。

 それは桜木姫衣きいが一人でほとんど作ったらしい。

 そしてそのカレーはお手本通りだった。


「お母さん仕事で帰りが遅いので私が作ってますから……」


 桜木姫衣きいはそう那奈ななちゃん先生に言っている。

 そうか、家の家事手伝いもしているんだ。



「ねえ瑠香るかちゃん、これにマヨネーズ入れたら美味しいかな?」


「やめなさい、このマヨラーが! うちのお兄ちゃんじゃないけど何でもかんでもマヨネーズかけるんじゃない!」


 お兄ちゃんは何にでもマヨネーズをかけて食べるくせがある。

 それを見てお母さんは「昔マヨラーっての流行ったのよね~、なんにでもマヨネーズかけるのよね~」なんていらない知識を教えてくれた。


 でも動画サイトで昔のバブルの時代の流行りの踊りや音楽が流れているのを見て私も「マヨラー」という言葉を使ってみる。



「マヨラーって何?」


「マヨネーズを何にでもかける人の事を言うのよ」


 私たちがそんな事を言っているとなぜか桜木姫衣きいがこちらを見てぽつりと言う。



「私もマヨネーズかける時があるよ」


「「へっ?」」



 思わず私とあずさは桜木姫衣きいのその言葉に反応する。

 すると桜井姫衣きいは自分のカレーライスにマヨネーズをかけ始めた。


「辛いと思った時にマヨネーズ入れると辛さが押さえられるの。いる?」


 そう言いながらマヨネーズのチューブをあずさに差し出す。



「いや、カレーにマヨネーズってワケ分からないから!」


「う~ん、辛さが押さえられるのかあ、今日の中辛だからちょっと心配だったんだよねぇ、ありがと!」



 決してマヨラーじゃない私は桜木姫衣きいのその突拍子とっぴょうしもない行動に面喰いながらもあずさにマヨネーズを渡す時に見せる笑顔にドキリとすると同時にちょっと胸の奥がもやもやする。



―― 何で先にマヨネーズよこさないのよ! ――



 何故かそんな言葉が頭をよぎる。


「あ、あれ?」



 そんな自分の変化に私は気づいてしまったのだった。

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