幕間 ー2
並んで立つと、セルマの頭はちょうど俺の
「……あまりじろじろ見ないで」
ぼんやりと正面を眺めたまま、俺に
今日は王都のそばまで
神殿の正門付近には、修道女たちの姿があった。帰りの遅い我々を心配し、数人が
団長への報告のため、一足先に神殿へ向かうラーシュの背中を後目に、俺は表情の
ヲウル神殿は標高が高いせいで気温が下がるのも早く、夜ともなれば冬用の分厚い
「いつもより元気がない。どうしたセルマ、寒いか? それともどこか痛むのか?」
「少し
セルマは
「本当に?
心配になり、俺はセルマの正面に回った。手を
「……確かに熱はなさそうだな」
熱くも冷たくもない。おそらく平熱だろう。
今はよくてもこれから先、熱が上がらないとも限らない。悪魔を一体片付けた気の
セルマを心配していただけなのに、当の本人は迷惑そうに俺の胸に手を当てて、グイッと押して離れようとする。
「ありがたいけれど、本当に平気なの。心配はいらない」
やはり様子がおかしい。首を振り、
「君はいつもそうやって強がる。もっと
「……テオの気持ちはありがたいけれど、別にちっとも強がっていないの」
ようやくセルマが俺を見た。しかし、その顔にあるのは聖女を演じているときの
衆目があるからか、その後セルマは
「テオ、あれは一体どういうこと? ていうか、どうして
執務室。セルマと並んで
「どういうこと、とは?」
要領を得ない質問だったので、聞き返した。
「さっきの。さっきというか、昼間も。むしろ昼間のあれの方が重要よ。……キスのこと」
「キス? 祝福の接吻のことか? あれは単なる
「言ったけど、どうしてテオから私にキスをしたの? しかも、し、舌をっ」
どちらがどちらに
「俺からキスをしてはいけないのか? 『キスした』という結論は変わらないのに? 舌は……つい。セルマがかわいくて」
「つい!? かわいくて!?」
丸い目をさらに丸くしてセルマが
このように取り乱した姿はとても貴重だ。苛立っている原因については気がかりだが、いつも誰にでも平等で、
セルマが立ち上がり、茶器の
「……最近のテオは変よ。どうして急に私との距離を詰めようとしてくるの?」
ほどなくしてカップを運んできたセルマは、俺の向かいのソファに座った。……さっきまでは隣に座っていたのに。
「セルマの一番の理解者になりたいからだが?」
「だが? じゃないでしょ!」
俺は胸を張って答えたが、納得してもらえなかった。
「私は何も困ってない。テオも以前のままでいい。変化なんか望んでないのよ」
「俺は望んでる」
正確に言うなら、変化はすでにあった。エヴェリーナ嬢の悪魔祓いを終えてから、俺の中でセルマへの見方が百八十度変わったのだ。
「俺はセルマに
「ちょっと待って。テオの質問に答えるとは言ったけど、今の質問は悪魔祓いに関係ないわ」
仕事のことしか聞くなという姿勢に、セルマの真面目さが
にやけそうになるのを隠そうと、彼女が
「義務として答えてほしいわけじゃない。すぐに答えがほしいわけでもない」
「……どういうこと?」
「セルマのいいところは、
ところが、俺がこんなにも真面目に話しているというのに、セルマは口をあんぐりと
「……俺は何か変なことを言っているか?」
「ええ。かなりね」
「要するに、俺は君にもっと近づきたいということなんだが」
セルマは長く時間をかけてから、
「わかった、承知しました。でも、テオに『これ以上近づかれては不快だ』と思う対人距離があるように、私にもその限界は存在する。だから
「なるほど。よくわからない」
「なぜに!? ばかなの!?」
今日のセルマはよく取り乱す。やはり疲れているのだろうか。
「キスの時はどうしても接触する必要がある。配慮していたらキスにならない」
俺の反論にセルマは大きなため息を吐き、茶を
それからゴホンと
「あのね、キスは四六時中するものじゃないでしょう? しかもあれは単なる儀式。お願いだからエヴェリーナさまの悪魔みたいにグイグイ来る人にならないでよ!」
エヴェリーナ嬢の名が出た途端、俺の体に鳥肌が立った。
感情の押し付けがどれだけ不快で苦痛か、俺はこの身で学んでいたにもかかわらず、セルマにしようとしていたのか……。
しかし俺は反省も改善もできる男だ。身を正し、同じ
「任せてくれ。君に騙されることはあっても、俺が騙すことはない。俺は必ず君の力になる。セルマの武器となり、
立ち上がりセルマの側で
これは
「疲れているんだったな。時間を取って悪かった。茶も、ご
「…………え? あー……ええ。いいのよ」
よっぽど
「おやすみ。セルマ」
「おやすみ……テオ」
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この続きは、2022年6月15日発売のビーズログ文庫
「本物の聖女じゃないとバレたのに、王弟殿下に迫られています」
でお楽しみください!
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