全てのはじまり

古宮志乃

はじまりのはじまり

カタンコトン……

カタンコトン……



ある5月のことだった。

帰宅ラッシュにはまだ早い、夕暮れ時。


人のまばらな車内で、私はロングシートの端に座り、対面の車窓を眺めていた。

この数ヶ月で馴染んできた外の景色。

ひしめく家々がシュンと通り過ぎてゆく。


ふと、気配を感じて、遠くに視線を運ぶ。

私はそこに懐かしさを覚えた。


窓の外の奥の奥、おおきな入道雲がそびえ立っている。

雲の至るところに朱色をまとい、でんっとした姿でそこにいた。

強い色の青空を、そして私の心を、その色は、やさしく包み込んでくれる。


過去に置き去りにしてきた思い出が溢れ出す。

オルゴールから溢れる音色のように。

ポロン、ポロンと、やさしくメロディーを奏でる。


心にじんわりと広がる心地良さ、懐かしさがあった。

そう、それは間違いなく毎年感じていた感覚だった。


そう、私はこの時を待ちわびていた!

夢見心地で、ふわふわとした浮揚感!

どこかしんみりする哀愁の情……


夏が来たのだ!


私の心はワクワクを抑えきれない。

私はまたこの時期に出会えた。

この心地良さを忘れるわけにはいかない。

これは、私と夏の物語。




さあ、夏が始まる。

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全てのはじまり 古宮志乃 @summer_lover

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