第3話 私ははじめ皇太子または公安警察になるのだと思っていた

【タイトル】

第3話 私ははじめ皇太子または公安警察になるのだと思っていた


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2018-09-20 16:17:29(+09:00)


【公開日時】

2018-09-20 16:21:45(+09:00)


【更新日時】

2018-09-20 16:23:50(+09:00)


【文字数】

1,479文字


【本文(59行)】

 統合失調症になりたての頃。


 私は愛子様と結婚するのだと本気で思ってしまっていた。

 テレビでそう言っているように感じたし、何しろ周りの雰囲気が五月に入り異常になった。


 僕が異常な有名人になったかのように皆が僕に視線を投げかける。


 テレビのニュースも僕に暗号を伝えるかのように感じられた。

 五月に起きた新潟での少女殺傷事件もその地図と僕のバイト先の地図が酷似していた。だから何らかのメッセージがあるのだと感じた。


 自分でも訳が分からなかった。

 SPI3試験で偏差値70を超えた後だった。

 また、参加したインターンで僕がリーダーだった班の総合得点が想定された満点を超えたりしていた。

 これらより、僕は自分が優秀だと思っていた節がどこかにあった。

 だからひっかかった。


 大阪中之島では「この子が来たら地位が危うくなるから来ないでほしいわー」とか「同志社なんだってー」とか言われたりした。スーツを着た大人たちにだ。意味がわからない。


 どうすればこの茶番が止まるのかわからない。


 先ほどの新潟の地図と、アルバイト先との地図とを重ね合わせ、京都ウエスタンホテルに向かうことにした。そこで愛子様の名前を呼んでみることにした。


 地下鉄で向かう途中でパトカーがワンワン鳴り出した。地下鉄に乗っている人々が「烏丸御池駅は警察に包囲されているらしい」と言った。意味不明だったが丸太町駅で降りて、徒歩でウエスタンホテルまで向かった。


 ウエスタンホテルに着いた。

 愛子様はいますかと尋ねると、その名前では登録がないと言われた。


 まるで正式名称だったら登録があるかのような言い方だった。

 僕はこのとき、すでにテレビからの命令でパソコンとスマートフォンを破壊し焼却処分に入れていて調べることができなかった。


 僕は粘らざるを得ない。でなければ延々と茶番が続いてしまう。


 2018年5月17日 午後10時ちょうど。

 待ち構えていたかのように東山警察署の警官に保護され、東山拘置所に一日抑留されることになった。


 これで茶番は終わるのだとほっとした。


 ここからが地獄だとは思いもよらなかった。

 一週間、K大病院の西病棟の保護室と呼ばれる、監獄以上の密閉空間に一週間監禁されることになる。

 そしてそれが過ぎ二ヶ月間、K大病院西病棟に二か月間軟禁されることとなる。


 僕の二十三歳の春は破壊された。


 これは公安警察の試験だと監禁中ずっと思った。心臓を何回もいじくられパニック障害に幾度となくさらされた。生地獄いきじごく。呼んでも来ない看護師。「えー。行っちゃいけないのー。えっぐー」と看護師に言われた。


 医者にも携帯電話で通話をしながら「……買っていた、……お菓子が消える、……」とわざとらしく言われた。実際に消えた。


 看護師に「ここでこけたら今まで何だったんですか」と違う患者を向きながら僕に聞こえるように言ってきた。これが修行じゃなくてなんなのだろう。


 だだの統合失調症と通告を受けたのは入院してから一か月以上が経ってからだった。それまで意味も分からず、僕は監禁状態を続けさせられていた。


 地獄だった。

 死んだあとは、ああいう所へ行くのだろうと思った。死にたくないと思った。天国とはああいう場所かとも思った。何もなく一日中ふらついている、廊下を幽霊のようにふらふら歩行し周回し続けていく、そんな場所。


 退院したけど何もない。政府から連絡もなければ公安警察から連絡もない。宮内庁もだんまりだ。当たり前だ。誰も僕の名前など知っていないだろう。


 地獄を経験し、何もない状態で大学の授業と格闘し、職探しに明け暮れなければならない。


 唯一の武器、精神障害者手帳をぶら下げながら僕は未来へ進む。

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