14:仕事

 冒険者の仕事は三種類に分けられる。依頼、指令、冒険の三つだ。


 冒険者大同盟の定めた正式な呼び名では任意遂行指令とされているものが、冒険者の間では依頼と呼ばれている。主に民間の個人や組織から各地の冒険者ギルドに持ち込まれた仕事に対し、活動している冒険者が自分好みのものを選んで引き受けるという形式をとっている。

 依頼の報酬の一部は手数料として冒険者ギルドに天引きされるが、自身の実力に対して無理のない仕事を選べる点は他の二種類にはない特長だ。また、依頼の内容によっては必ずしも危険な狭間の地に出向く必要はなく、市街地での問題解決が求められることも多い。時には半ば雑用あるいは便利屋扱いの依頼もあるが、連繋パーティを組んでいる仲間が怪我で療養していて戦力に不安があるなどの理由で、そういった地味な依頼を選んで引き受ける者もいる。


 指令、正式には指定遂行指令は、冒険者ギルドから直接冒険者を指名して、ギルド側が選んだ仕事を行わせる。依頼と違い、冒険者側に選択権はなく、よほど特別な事情がない限り拒否権もない。

 指令に選ばれる仕事は、狭間の地に関わるものが圧倒的に多い。怪物が自然発生する狭間の地は、放置すれば増えた怪物が次なる獲物を求めて居住地域に攻め込む侵略者アグロを生み出しかねない。そのため冒険者大同盟は頻繁に、狭間の地への偵察や怪物掃討を指令として冒険者に命じる必要があるのだ。

 戦闘能力に自信のある冒険者や、リスクを承知で金銭的報酬を求める者などが、指令が飛ぶ前に自発的に狭間の地行きの仕事を引き受けることもある。この場合、荒事を希望する冒険者に対して指令を優先的に発する形になる。自ら望んでも指名されても、指令の遂行が冒険者にとって重要な義務であることに変わりはない。


 冒険は、正確に言えば仕事ではない。冒険者が空いているスケジュールを利用して自発的に狭間の地へ赴くことを指して冒険と呼ぶ。

 冒険者が冒険に出る最大の動機は、遺質物を探すことだ。狭間の地に残された過去の遺物や、過酷な環境で力を得た魔器。そういったものを見つけ出すことができれば、自分たちの戦力を大きく底上げするか、あるいは冒険者大同盟に引き取らせてまとまった金銭を得ることができる。

 冒険者の中には、狭間の地に現出することのある異空間、歪みの穴ヴォイドスカイを狙う者も少なくない。これは狭間の地に渦巻く様々な「怪物の魔術」や遺質物の影響によって生み出されるものだ。それぞれ独自の魔力的性質を持つそれらの相互作用が作り出す歪みの穴は、内部に多数の怪物が巣食っていることが大半だが、運よく遺質物を発見できれば、それは十中八九強力な力を帯びている。そうでなくても、数多の怪物を打ち倒して歪みの穴を踏破したなら、その奮闘はコーデックスに記録されてギルドからの報奨金となる。歪みの穴は確かに危険だが、どんな怪物を相手取っても勝てる自信があるなら空振りの心配のない仕事というわけだ。


 冒険者の目的は金銭だけではない。己の力と技を磨き抜くことは、魂の器の鍛錬にも繋がる。器をより成長させることとは、すなわち己の能力を高めること。もし仕事の中で遺質物が見つからなかったとしても、自分自身が強くなれば、仕事の選択肢はさらに広がる。

 なにより、自分こそは次なるアイリーンになるのだという希望を胸に抱く冒険者は決して珍しくない。彼らのような者にとって、魂の器を成長させることこそが冒険の目的なのだ。


 君は己の冒険譚コーデックスに、なにを刻む?

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