13:屍忌
魔術の一系統に、
しかしながら、冒険の大地において、死は絶対のものと信じられている。死者は決して蘇らない。死とは魂の器の喪失に外ならず、その器を元に戻すことなど、人の力では決してできることではない、と。
V2=ビビアンは屍忌術士である。多くの屍忌術士がそうするように、彼女もまた自身が屍忌術士であることを隠しはしなかった。そしてそのことは、多くの人々が彼女のことを誤解する原因となった。
死の禁忌を侵すもの、怪物に最も近いもの。そういった言葉はどれも彼女の本質を表すものではなかったが、彼女の周囲から他の冒険者を遠ざけるには十分だった。
彼女と
過去に何度か、周囲の誤解を解くために説得を試みたことはある。だが屍忌術どころか魔術そのものに明るくない白樺琥珀には、ビビアンの人柄や性格を伝えるのが精いっぱいで、人々は彼のことを「屍術士に騙されているかわいそうな緑人」としか見てくれなかった。
それでも白樺琥珀は知っている。かつてビビアンが話してくれた昔話と、彼女が戦場で振るう力の正体を。
ひとたび戦場に出れば、V2は多彩な技を状況に応じて臨機応変に繰り出す。杖を横薙ぎに振るえば、刃となって敵を切り裂く。杖を持った左手を伸ばして構えると、暗闇を織ったような矢が右手から杖のすぐ横を通って放たれる。杖を両手で持って突き出せば、鋭い槍のような影を残して怪物の急所を正確に貫く。
無限鞄から次々に武器を取り出す戦士の戦い方に似ているが、その戦技のすべては杖によって行われている。彼女が操るのはあくまで魔術であることの証左である。
戦いのさ中、白樺琥珀はV2の横顔を視界の隅に収める。やはりいつもの通り、彼女は己に呼び掛けていた。
これはアイシャの剣。これはレオの弓矢。これはモートンの槍。
アイシャはいつも笑っていた。レオは狩りを教えてくれた。モートンは村で一番勇敢だった。
これはマールの約束。これはオリバーの願い。これはユリカの決意。
マールは怪我が治ったら村を立て直そうと言い残した。オリバーは
屍忌とは記憶である。屍忌術とは思い出である。
死したものは決して蘇らない。しかし、その記憶を生き残りに託すことはできる。
鍛えた技を、交わした約束を、身に着けた知識を、何気ない会話を、生き残った者に託すことはできる。
屍忌術士とは託された者だ。屍忌と呼ばれ、決して蘇ることのない存在を心に刻み、その記憶を力に変える者だ。
託された力と想いが大きいほど、屍忌術士へのしかかる重みは強くなる。ともすれば、屍忌の重みに耐えかね、屍忌術士を殺してしまうかもしれない。
それでも屍忌術士は決して、背負った記憶を捨てはしない。
自分がそれを手放したなら、他に誰が死者を想ってくれるというのか。
絶対に、忘れない。それが屍忌術士だ。
戦いが終わると、V2はいつものように、小さな墓を作る。きっと彼女は、今日の戦いのことも忘れないのだろう。
だが白樺琥珀はこうも考える。あの墓に名前が刻まれるとしたら、それは彼女の名前なのではないだろうか、と。
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