9:魔術師
冒険の大地は魔力に満ちている。となれば、魔術に親しむ者が多いのも自然なことだろう。だがその一方で、自らを魔術師と名乗る者は少数に留まる。コーデックスの存在なくては成り立たない、つまり魔術の存在ありきともいえる冒険者の中にさえ、魔術師を自称する者は決して多くない。これには様々な理由がある。
第一に、冒険者の多くは魔術という概念に無自覚に接することが多々あり、自らが魔術を行使しているという認識のないまま魔術を操る者が数多く存在するからだ。
魔力は様々な切り口からその性質を利用されている。そのため冒険者に限らず、人々の中には「
それらは紛れもない魔術なのだが、それを操る者も教え伝える者も、それが魔術であることを知らないという事例は、まったく珍しくない。たとえ拳の一突きで遠く離れた敵を打ち据えようと、それが魔術であると正しく理解している者は少ない。
第二に、魔術のみをもって戦う者達にとって、魔術師という言葉は「研究畑の頭でっかち」という意味合いが少なからず含まれていることが挙げられる。事実、魔術研究者の多くは自身が保有する工房を主戦場とし、理論と思考によって新たなる境地に至ろうとする。彼らにとって、実践とは単なる答え合わせに過ぎず、そして概して自身の誤りを証明する機会でしかない。
その一方で、敵と戦うことを主眼としている戦闘魔術師、
そのうえで、冒険者が自らを魔術師と呼称する場合、その理由はふたつにひとつ。
ひとつは、己の魔術を変異させる技術を持たない未熟者。
もうひとつは、己の魔術を変異させるまでもなく、あらゆる状況に対応するだけの魔術を操る、数と技巧と知識を備えた
真なる魔術師として称えられ、そして恐れられる存在。それがライブラだ。
彼らは「知らない」と言わない。「これから知ることになる」と言う。
彼らは「知っている」と言わない。「君には教えられることだ」と言う。
彼らは「できない」と言わない。「少し手間取りそうだ」と言う。
彼らは「できる」と言わない。「ひとつ思いついた」と言う。
魔術を糧に生きようとする者よ。汝の生きる道を選べ。
その全てが誤りに通じる。己の
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