8:遺質物
遺質物の多くは、混沌の黎明に生まれたものが狭間の地に流れ着き、次なる持ち主を待っている
冒険者はこの両者を区別しない。彼らにとっての関心事は、その遺質物が冒険の役に立つかどうか、誰かを救う力になるか、それとも冒険とは別の場所に活かされるべきものか、だ。
たとえば、ある剣士は淡い光を放つ剣を狭間の地から持ち帰った。その剣は魂の器を備え、長い間己の主となる人物を待っていた。忌まわしき怪物どもをことごとく斬り捨て、大地に平和と安寧を取り戻そうとする、気高き主を。
たとえば、ある術士は白紙のページだけの本を狭間の地から持ち帰った。魔力を注ぎ込むことで浮かび上がる発音不能の文字は、持ち主に絶大な破壊力を備える魔術を授けた。敵対するすべてを打ち砕け、と言わんばかりに。
たとえば、ある銃士は弾倉のない拳銃を狭間の地から持ち帰った。持ち主の手から生き血を啜る、不気味な銃だった。血の代償を支払えば、決して的を外さない魔弾の射手にふさわしい銃だった。
冒険者大同盟は、冒険者が手に入れた遺質物の情報のすべてを、コーデックスを通じて収集し分析している。すべての遺質物が悪用されることのないように。予期せぬ形で遺質物という力を手に入れた者が、蛮行に走らぬように。いつか技術が発達し、遺質物を模造できるようになる日が来た時、人々がお互いを滅ぼし合わないように。
いずれの国家に対しても一定の距離を置き、その必要があればどの国に対しても敵対し、あるいは援軍となる冒険者大同盟に遺質物が集中していることは、冒険者大同盟という組織が国際社会の中で重要な役割を果たしていることの証左でもある。
遺質物が冒険者と密接な関係があるのは確かだ。しかし、遺質物が冒険者にとって不可欠かというと、そうではない。冒険者の中には、手に入れた遺質物とセットで評判になっている人物も少なくないが、遺質物を手に入れなければ冒険者として大成できないというのは単なる偏見である。
世の冒険者の中は、遺質物を持たずして、その力を超えた者が存在する。
どこにでもある店売りの剣で、生きた剣よりも鋭く速く怪物を討つ剣士。
己の魂と心と知恵のみを武器に、何の道具も持たずに大魔術を行使する術士。
なんの変哲もない弓矢で、あらゆる魔弾を再現してみせる弓士。
その熟達した技巧は、時に遺質物と同等、あるいはそれ以上のものとして語られる。
道具が願いを叶えるのではない。
願いを叶えるのはお前で、道具は単なるお前の手だ。
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