1:冒険者
――申請に必要な書類はこれでほぼ全部だ。お疲れさん。はは、少し疲れたみたいだな。冒険者になるやつは大体お前さんのような顔をするもんだよ。ジュースでも飲むかい? よし。それじゃあ、残りはあと2ステップだ。もうちょっとだよ、背筋伸ばして聞いてくれ。
ひとつは、これまでの書類をただ言われるまま書いたわけじゃないことを証明してもらう。なあに、簡単な質問に答えてくれればいいだけだ。そんなに難しくないよ。
では一問目。そもそも、お前さんが今話している、俺の所属する組織。つまり冒険者ギルドの正式名称は何だったかな?
この大同盟の源流は、混沌の黎明に始祖アイリーンが立ち上げた、冒険者たちの連携を大陸全土に渡って維持するための組織だ。当時から大同盟という名前だったが、アイリーンの失踪が確定した後に、今の運営体制で再発足した。今の意思決定機関である七十二人議会も、その時に作られた規則に則って運営されている。
次、二問目。その七十二人議会が掲げている、大同盟運営における大原則とは?
そうだな。「冒険者はどの国にも属さず、己の意思で手を差し伸べる」。別名を自由救済原則とも言う。
なんでこんな大原則が出てきたかっていうと、そこのところは実ははっきりしてない。お察しの通り、混沌の黎明にアイリーンが掲げた言葉をそのまま使ってるからだ。アイリーンの伝説をいくつか聞いたことがあるだろう? 「誰かのために冒険に出た」っていうより「冒険に出た結果、誰かのためになった」って伝承の方がずっと多い。そもそも冒険者というもの自体、自由な意思あってこそってわけだ。
だが、この自由救済原則が昔からずっと効いているおかげで、冒険者は自分の意志で自由に、どの国から来た依頼でも受けられ、どの国に利する仕事でも文句を言われず、どの国を害する行動でも取ることができる。
なにせ、すべての冒険者が自分の自由意志に従って行動するからな。どこかのバカが金にものを言わせて冒険者たちを私物化して軍隊にしたとしても、それにムカついたほかの冒険者たちが自発的にその軍隊をぶちのめしていいことになってる。冒険者ってのは、ある意味では一番危険な存在だが、それそのものが安全装置として機能する。世界一自由で野蛮な武力集団であると同時に、世界最大規模の義勇軍でもあるってことさ。
それじゃ、これで最後だ。それほど好き勝手できる冒険者を、大同盟はどうやって統率し管理している?
残念、不正解。ああ心配するな、これは正解できなくても大丈夫な問題だからな。だって教えてねえもん。
冒険者という無法者の集団に対する、絶対の法。その礎がこれ、
すべての冒険者は、このコーデックスを可能な限り常時身に着けておくことが義務付けられている。そして、こいつは冒険者の行動をすべて自動的に記録し続ける。善行も、悪行も、成功も失敗も。何もかもだ。
冒険者にも法律はあるが、誰かがつきっきりで監視するわけにはいかないだろう? コーデックスは常にお前を見て、あとで不法行為が発覚した時には動かぬ証拠となる。コーデックスの偽装も罪に問われるし、そもそも偽装に成功した例は過去一件もない。変なことは考えないほうがいい。
窮屈そうだって? そう言いだすやつもたくさんいるさ。だが、お前さんもコーデックスを手放せなくなるだろう。こいつは冒険者を監視する代わりに、持ち主に色々な恩恵をもたらす
そうだな、ちょっと財布出してみな。リングス金貨が入ってるだろ? 冒険の大地のどこでも通用する金で、何十枚何百枚あろうが
コーデックスは、その圧縮魔術の上位版、無限鞄の触媒なんだ。冒険者が大量の荷物を苦労せず持ち運べるのも、コーデックスあればこそ。そもそも、コーデックスを持ち歩くときはだいたい無限鞄の中に入れてるから邪魔にならない。冒険者の中には、東西南北に大量の商品を運んで売りさばいて金稼ぎしてるやつも珍しくない。だが生ものはやめとけ、腐るのは止められん。
他にも、戦いの中で敵の動きを見破る未来予知や、離れた仲間と話ができる遠話、大同盟が管理する図書館の蔵書を出先で読める万能図書と、冒険に役立つ魔術を合法的に行使するにはコーデックスが欠かせない。どうだ、便利だろう?
さあ、これからが最終ステップだ。お前のコーデックスの表紙に、お前自身の名前を書き込んでもらう。冒険者になるには、最初に自分に
コードネームは、大同盟が冒険者を管理するための名前であると同時に、お前が自分をどんな冒険者にしたいか、その決意を示すための儀式でもある。どの国の言葉でも、なんなら
冒険者として、自分は何者になろうとするか。自分自身を定義しろ。
決めたな。その決意が、お前の
今この時から、お前は
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