無の記

1

「ここ、どこでしょう…」

墓靄が小さい声を上げる。

場所は白金高輪駅の一つしかない改札。

人気はなく、だが光だけはけたたましく輝いている。

それに気を介することなく墓靄は左側の通路へと足を進める。

起きたら急にここというのも謎だが、さらに謎なのは見たことも聞いたこともないという世界だということ。

兇にも福にも電車などあるわけがなく全くの未知。

「これは、階段でしょうか…」

上へと続く長い階段を、一段一段噛み締めながら登る。

途中でエスカレーターという存在に気づいたようだがこちらも興味がないらしい。


ゴォん、ゴォん…


地下に電気音が響く。

そして登り終えると、左側には都会が広がっていた。


が、それよりも奇妙なことがあった。

右側にあるまたも長い階段の一段目に、少女がちょこんと座っていた。

いや、少女というよりかはティーンか。

「ふぅ」

その少女は目を細めながらため息を漏らす。

それが何を意味しているかなど知る余地もない。


「…!」

両者がお互いの存在に気づく。

だが戦うような素振りを見せず、二人ともそっぽを向いて反対側へと歩いていった。


墓靄は平らへ、オキシは上へ。

神妙な面持ちをしているのは後から何かが起こるからか。





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