感の記
2
今頃この事を思い出すか。
あの時は楽しかったな。
無造作に食べれらたものなのだから。
ゾクッと
ムの背筋に悪感が走る。
何か厭な予感がする。
森の木々もそう叫んでいる。
「クックックッ……………」
どこからかともなく笑い声が聞こえる。
この暗い森の中のどこかで。
やがてそれは耳に直接語りかけるようになる。
「アッアッアッアッ………」
声も裏返り始め、限界が近くなる。
そして、
「あ"ーーーーーー」
とノイズのようにムの頭の中で本能的な恐怖を呼び起こすような声が流された。
それはひどく単調だが、タチが悪いのか微妙に音程を変えてくる。
「あ"ーーーーーー」
耳を抑える。
だがそんなものに意味はない。
「あ"ーーーーーー」
遂にムは倒れ込んでしまった。
そのスカートを汚しながら。
「うっ、うっ、うっ…………」
泣き出してしまったムを他所に、厭はその場所へと近づいていく。
まるでこれから喰らうかのように。
「ねぇ…」
彼女に白い素手で触ろうとした瞬間。
「捕まえた」
体が動かなくなった。
いや、それだけではなく場所も変わった。
そこは、ただ広いだけの草原だった。
(……動けん……)
厭は動けない口を動かそうとするが、どこも動くことはない。
「
福聚海無量
それは地球のブッダの心の広さを海に表す言葉。
それを草原に変えた者が、ム。
精場を変えた彼女の能力は、話し合い。
話して話して話して、相手を戦わずして降伏させる。
元々は戦える能力だったらしいが。
そんな場所で抵抗などできるものなどいない、そうずっと思われていた。
が、
「あんた、いい顔してるね」
と、厭から声が発せられた。
それに動揺することもなくムは、
「ありがとうございます」
と感謝の言葉を述べる。
「ところで、これいつ解除されるの?」
「……ある条件を達成すると、降印が解かれます」
「それって、コレ?」
そう言いながら厭は辛うじて動かせる舌を歯の間に持ってきて、思いっきり噛んだ。
血が地面に滴る。
「痛っ」
両者が顔を歪める。
厭は痛みに。
ムは驚きに。
そして、体が動いた。
「……よく、わかりましたね」
「だってあんた、血、嫌いそうな初心な顔してるから」
「……」
無音が続く。
いつまでもその均等が続くと、思われた。
「………なんで?」
「言えません」
簡単な疑問にムは即答する。
それを予測していたのか厭は、左腕を宙に浮かせ掌をムに向けながら
「じゃあ、一緒に見よう」
といった。
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