20




「善。」


未だ物思いに耽る少年の名を呼んで。





「姉貴の話はもう終わりにして…今度はお前の気持ち、」


教えろよ…と。

いつになく命令口調で告げる國将に、善はドキリと胸を焦がす。





「僕、の…?」


気持ち?と目を泳がせる少年に。

國将はそうだ…と、悪戯な笑みを態と見せつけた。


途端に真っ赤になって、口ごもる善。






「僕の気持ちって…そんな…」


必要ないと言い掛ける唇を、國将は親指の腹でさまたげる。





「俺は…知りたいんだよ。」


謙遜なんて認めない。

建前なんて抜きにして、本音だけを晒け出せばいいと。


國将は真っ直ぐ少年を見つめ…逃げ道を塞ぐ。

年下相手に大人げないとか、この際綺麗事は後回しだ。





「お前は…どう思ってんだ?」


俺の事を────…それはただ憧れだけの存在なのか。

それとも…






「僕、はっ…」


目を逸らせない。

逃げようにも頬を包む手があまりに…熱くて。

身体が思考が、全然言うことを聞かない。






「ぼく、は…」


言ったらどうなるだろう?

気持ち悪いって、嫌われたりしないだろうか?

自分だってどうかしてるって思うのに…

そんな僅かな理性の壁が、善の中で葛藤する。


ならばもうひと押し…






「ッ…─────!」


迷いを口にする善のソレに、ギリギリの所まで近づいて。触れるか触れないかで、とどまる。


吐息は熱い位当たっていたけど。國将は構わず、その位置を保った。






「善…?」


早く言えよと、獣じみた目で促す。





「ぁ………」


少年はわなわなと震えて…耐えきれず、涙を溢すけど。





「善…」


わざと唇に息を吐き掛け、命令すれば。







「ッ…です、國将さんがっ…」


───────好きなんです、と。






「ああ…俺もだ。」


───────愛してるよ、なんて。

國将は今まで紡いだ事のない告白で以て、少年に応えた。






「え…」


「聞こえなかったか?」


好きだって言ったんだけど?

再度告げれば、少年は茫然と目を丸くする。





「だれ、が…だれ、を?」


「だから…俺がお前を、だよ。」


答えて國将は、善の唇に口付けた。







「な…う、そだ…」


信じられないと、首を横に振る善に國将は溜め息を吐く。





「あんなぁ…冗談で男にキスするわけねぇだろ?」


「でもっ、あの時は────…」


言い掛けて以前、國将とした行為を思い出し。

少年の顔は、ボンッと勢い良く上気した。






「なに想像したんだよ?」


「や、ちが…」


ニヤニヤすれば、善は判り易いくらい動揺してみせる。





「あん時は…よ。正直、高校生相手に悪い事したなとは思ってたけどよ…」


國将は我慢出来なかったのだと答える。





「お前があんまり可愛かったから…つい、な?」


嫌だったかと問われ、すぐにノーと首を振る善。

國将はバツが悪そうに微笑む。






「じゃあ、國将さんはっ…その頃から、そのっ…」


「好きだったぞ?まあ色々悩みもしたがな…」


既に吹っ切れている國将は、当然とばかりに答えて。善は恥ずかしさに堪らず俯く。






「でも…僕、男だよっ…?」


特別可愛いわけじゃないし、体格だって発展途上だが男そのものだ。

そんな自分が、まさか國将みたいに完璧な人に好かれるだなんて…まだ、信じられそうにない。






「関係ねぇよ…」


成り行きで助けたストーカーの弟は、今どき珍しいくらいに純粋で健気で。

意外と家庭的で姉想いの…魅力溢れる人間じゃないかと、國将は語る。






「真っ赤になるとスゲェ可愛くてさ…」


その度に抱き締めたくなったと言われたら。

善は言われた通り、真っ赤になって俯くしかない。





「だから…」


触れたい…と耳元で熱く問われ、善の肩が揺れる。

恥ずかし過ぎて声は出なかったけど。



少年はコクンと頷いて、國将の胸へと顔を埋めた。

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