19




「國将さんは…」


「ん…?」


しどろもどろ、善が涙を溢しながらゆっくりと口を開く。




「僕、ね…初めて会った時から國将さんに憧れてて…。一緒にいると楽しくって…」


その時は、お兄さんのような存在だと感じたのだと…懐かしむよう善は続ける。





「そんな國将さんの事をね、姉さんは好きだって言うんだ…」


だから流されたとはいえをしてしまった時は、ずっと罪悪感に苛まれていた。






「自分が國将さんと結婚したら、義理のお兄ちゃんになるのよって、だから応援してくれって…」


國将みたいな人間が家族になるなら、それは本当に喜ばしい事なのだけど…と。

言いながら善は、ずっと俯いたまま淡々と話し続ける。







「國将さんは、姉さんと…付き合ってるんでしょ?」


「………は?」


唐突過ぎる質問内容に、國将は面食らって言葉を失う。





「こないだ、聞いちゃったんだ…コンビニの前で國将さんと姉さんと…もう一人金髪の男の人と話してたの…」


言われて國将は思考を巡らせる。

この3人でとなると…時の事を言ってるのだろうか?





「姉さんも告白するって意気込んでたし…國将さんも、満更じゃない感じしてたからっ…」


「ちょっ…待て待て、どうしてそうなんだよ?!」


あり得ないと嘆息して、國将は話を中断させる。





「誰が誰といい感じだって?」


「だからっ、國将さんと姉さんでしょう…?」


善の答えに、國将は頭を抱え項垂れた。


なんとなく、解ってきたきがする。

善がなんで逃げたかとか、今まで何度もギクシャクしてた原因がほぼ…。



これが自惚れじゃなければだ。

そういう事、なんじゃないだろか…?







「お前は…」


全てを悟った國将は。

少年の頬を両手で包み込み、視線を交じらせる。


途端に少年は顔を真っ赤に染め上げて…

こんな反応見せられたら、自惚れでもいいような気がしてきた。






「俺にどうして欲しいんだ?」


國将が大好きな姉と結ばれて、義理の兄として関係を続けたいのか。





「もしお前が、本気で姉貴と付き合ってくれってんなら…考えてやってもいいぜ?」


「え…?」


我ながら、狡い人間だとは思うけど。

こういう事は白黒はっきりさせなきゃ気が済まないのが、國将の性分で。


残酷な問いに、善は見る間に目を潤ませる。






「う…ッ…」


「お前次第、なんだけどな…」


好きな子ほど虐めたくなるとは言うけど。

國将の中で今まで感じた事のない感情が、胸の底から沸き上がってくる。






「善…?」


「…だっ…」


名前だけ呼んで、じっと捕える。

そしたらもう、少年の隠していた心は。


涙と共にぽろぽろと…溢れ出ていた。






「やだ…そんなの、いやだっ…!」


嘘でも言えない、姉と付き合ってだなんて…

本音をぶちまけた少年に、國将は苦笑を漏らす。






「そうか、なら今の話は無しだ。」


「でもっ…國将さんは、姉さんの事…」


今までの姉に対する國将の行動の中で、何処にそんな勘違いをする要素があったのかは…謎だが。





「んなワケねーだろ?」


國将は清子に、何の感情も持ち合わせてはいないのだと。ここは敢えて直球で断言してやった。






「そ、だったん…だ…」


脱力する善は、どう反応するれば良いのか判らず、

複雑な表情を浮かべる。


しかし、まだ終わりじゃあない。

本題はここからにあるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る