18





夕方、帰宅ラッシュの続く通りで繰り広げられる逃走劇。


先行していた善は、必死に人波を掻い潜り…既に自宅前まであと少しとなっていた。






「善ッ…!!」


それを猛追する國将に、心臓が揺さぶられて。

自分の名を叫ぶ声にビクビクしながら、自宅玄関まで後数メートルとなっていた。が…






「あっ…!!」


玄関のドアを無意識に開けようとしたが、開く筈がなくて。鍵…なんて考えてる間に、善は腕を掴まれてしまう。






「ッ……!」


そのまま玄関に追い詰められた善は、両サイドを國将の腕で阻まれる形になってしまい。

見上げた彼の切羽詰まった表情に、堪らずヒュッと喉を鳴らした。






「…んで、逃げんだよ…」


荒い呼吸と共に吐き出された声が、妙に男臭くて。

非常時だと解っていても、ついドキリとしてしまう。


更にはその鋭い眼差しによって、釘付けにされたものだから…。善は忽ち思考が働かなくなってしまった。






「善…答えろよ…」


俯き黙る少年に、焦りが募り。

つい口調が昔のように荒くなる國将。


それが余計に善を追い詰めているのだと、判ってはいたけれど。さすがの彼にも全く余裕が無かった為、どうにもならない。







「善…なんで、逃げた?」


それでもここは、大人にならねばと。

國将は感情をなるべく抑え問い掛ける。


少年はなかなか答えられなかったが…國将は焦らすことなく、善の気持ちが追い付くのを。


じっ待ち続けた。






「ごめ…なさ…」


漸く放たれた言葉は、答えではなく謝罪で。

同時に涙を流し始めた少年に、國将はドキリとする。





「ごめっ…なさ…いッ…」


実際、問われたところで善にさえ逃げた理由は説明出来なかったので。

それからは何度口を開いても、同じ言葉しか出てこなかった。






「チッ……」


泣き出した少年に、どうしたものかと國将は考えて。ふと辺りを見回せば、ちらほらと此方を見てくる通行人の姿。

別に自分は気にならなかったが…善にとっては近所の目もあるだろうと察して。





「…家の鍵、出せ。」


泣きじゃくる善からなんとか鍵を受け取ると、ノブへと差し込んだ。

そのまま鍵を開け善の腕を引き、中へと入る。







「別に怒ってるワケじゃねぇから…」


未だ火が点いたよう泣き続ける少年の背を、軽く抱くようにして。國将が、やんわりと少年を慰める。





「ただ…お前にそういう態度されっと、嫌われたのかって思ったからさ…」


「そんなっ…」


國将の台詞に、善は違うと全力で否定して。





「嫌いなわけっ…ないよッ…」


そう言ってまた、俯き黙ってしまう。

これでは堂々巡り、自分も前へは進めないと悟った國将は。





「とりあえず、ちゃんと話しようぜ?」


多分お互いに、何か言いたいことがある筈なのに…

なんだか気持ちが空回りし、擦れ違っているような気がしたから。





「國将さん…」


見上げてきた少年に優しく微笑みかけたら…

彼は無言でうんと頷いた。

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