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「不和君、この後飲みに行かない~?」


「わりぃ、今日は先約があんだわ。」


またなとバイト仲間の誘いを断った國将は。

夕刻、バイト先のコンビニを後にする。


今日は金曜日な上に、シフトも早めの上がりだったから。國将はここぞとばかりに意を固めた表情を湛え…向かっていたのだ。


勿論、善のいる田代木家に。







(アイツいるかな…)


思えば今日まで連絡先すら交わしていなかったから、確認しようがないのだが。


それならそれで、家の前で待つ覚悟だとして國将は歩を進める。






(どうなんだろなぁ…)


それは國将には未知の領域で。

男相手になんて、それこそ雲の上の話だったものだから。

恋愛に関して選り取りみどりだった彼とて、例外ではなく。余裕なんて代物は存在しなかった。







「あっれ~不和サンじゃーん!最近良く会うね~?」


「チッ…」


途中障害物に遭遇したが…それどころではないのだと、國将は無視を決め込み突き進む。





「なんスか~シカトとかひっでぇじゃないスか~!」


「うるせぇ…今忙しいんだよ。」


それでも付いてくる後輩に、鬱陶しいから消えろと告げる國将。

後輩はわざとらしく頬を膨らませ抗議する。





「え~どうせ暇なんでしょ?飲みにでも行きましょーよ~?」


何も知らない後輩は、しつこく國将を誘ってきて。

國将は仕方なく足を止める。





「あのなぁ、俺は今からアイツのとこに…」


大事な話をしに行くんだよと、告げようとした時。






「あ、善…」


「え?ぜん~?」


バチリと目があった先に、学ラン姿の少年が現れて。





「善…」


「あっ…」


此方に気付いた少年が、スーパーの袋片手に固まる。






「不和サンどうしたんスか?誰か知り合いでも…」


後輩の台詞には応えず國将が一歩、少年の方へと踏み出す。すると…





「ッ……!」


「な…おい、善ッ…!」


予想外にも、善は國将を無視して。

全速力で以て逃げ出してしまうのだった。


思わず目を丸くする國将。






「あのガキがどうかしたんすか?」


後輩の声に、國将は我に返ったが…。






(アイツ…)


走り去る直前、少年の目が苦しげに揺らめいてたのが気に掛かる。


いきなり目の前で、あんな顔を見せられたら…






「上等だよ…」


「ちょ、なんなの?不和サンがあんなガキ相手にマジ喧嘩とか…死んじゃうよ~?」


背後では後輩が、検討違いな事を言っていたが…。





「んん…待てよ…高校生…?」


まさかそれは無いだろと呟く声も、耳に入ってきたが。





(その、まさかだよ…)


とっくに此方は覚悟出来てんだから…と。

その誓いを拳に握り締めて。


國将はどんどん小さくなっていく善の背中を追って、全速力で駆け出した。

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