16
あっという間にコンビニの見える位置まで辿り着いて。
(あっ…いた…)
遠目にも店内にいる國将を認めて、善の想いは一層膨れ上がる。
ここからでも彼がはっきり見てとれるのは…それだけ異彩を放つ容姿だったからだろう。
(やっぱり、格好いいな…)
接客スマイルでレジを打つ様も完璧で。
手際よく袋詰めする作業すら、胸を熱くさせる。
そんな自分が気持ち悪いなとも思ったけど…
今だけはと言い訳して。善はこっそりと彼の姿を堪能した。
(あ…もう、終わりなんだ…)
それもほんの5分程で。
スタッフルームから出てきた別のバイトの青年と入れ違いに、國将も仕事から上がってしまう。
正直もう少し見ていたかったなぁと…至福のひと時に、善はなんだか寂しくなって。
暫くの間、がっかりした様子でコンビニ内をぼんやり眺めていたのだが…。
『國将~!』
聞き慣れた声に弾かれ、その方を見やれば。
今しがたバイトを終え、私服に着替えて出てきたらしい國将がいて。
…その隣りには、やはり姉の姿。
加えてもう一人、金髪の派手な青年もその輪の中にいるようで。
何やら3人、店先の歩道で騒いでいた。
金髪の男には全く見覚えが無かったから。
きっと國将の友達なのだろうど推察する善。
なんだかこうしてコソコソ見てると、悪い事をしてるような気分に苛まれた少年は。更に物陰へと隠れ身を潜めた。
『コレが噂の人?』
その青年が、やけに高いテンションで國将に問うのを。善は耳にし、ドキリとする。
(噂…國将さんが、姉さんを…?)
それが気になってしまい、会話が途切れ途切れにしか耳に入ってこない。
『いや~やっと不和サンの想いが通じたんスね~…』
想い?それはどういう意味だろう?
(國将さんが、姉さんに…それとも姉さんが…)
想いを伝えたってこと?どんな?
頭が真っ白になり、胸の奥底から沸々と黒い感情が沸き上がる。
その間にも会話は続いていて…
『もうっ國将ったらヤキモチ妬いてるぅ~!心配しなくても私は國将一筋よ~!』
姉がそんな事を叫んだ後、当たり前のように國将の腕に抱き付いていた。
(っ…………!)
身内の起こした行動に耐えきれず、善は走り出す。
(きっと姉さんはっ…國将さんに────)
告白したのだと。先程の会話で悟った善は。
走りながら、涙を流す。
(良かったじゃないか…)
大好きな姉の恋が実り、憧れの國将が本当の兄になるのなら。
そう、綺麗事で纏めようとしてみるのに。
涙は止まらないし、心臓の辺りがずっと苦しくて仕方ない。
(もう、諦めるんだ…)
どうせ端から望みのない事だったのだから。
この想いはさっさと捨てて、姉の幸せを願ってあげなきゃ────…
「うっ…くッ……」
ちゃんと笑わなきゃ、でも今だけ…最後にほんの少しだけだから。
「くにまさ、さっ…」
この想いに、浸らせて…泣いてしまうのを許してくれませんか、と…。
少年は宛もなく、無我夢中で夜道を駆け抜け。
途方もない絶望感に。
ただただ涙を流し続けた。
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