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國将が後輩と清子に遭遇する、少し前の事。



いつになく静まり返った室内が落ち着かなくて。

少年はふと、時計を見上げる。


時刻は21時前を指していて…。

今日も姉は帰りが遅いのだなと、善は溜め息を吐いた。






(もしかしたら、また…)


國将の所へでも、行っているのだろうか?

最近はバイトや大学が忙しいから、家に来てくれないと不満を漏らしていたし…。

その情報元はバイト先のコンビニまで押し掛け、本人から直接聞いたのだとも言っていたから…。



そんな事を考えていたら。

善の胸にまた、つきりとした鈍い痛みが走った。

 




國将が近所のコンビニでバイトしていた事は、出会った当初から知っていたけど。

思えば一度もその光景を目の当たりにしてなかったなと、善は回顧する。


それは単純に、國将のシフト時間が夜勤寄りだったからなのだけど。

姉も偶然コンビニで國将を見かけ、一目惚れしたと言っていたし…。その姉だけでなく、國将がシフトに入った時には女性客の入りが凄まじいとも聞いていたから。



何の特徴も無いコンビニ店員のユニフォーム姿でも、きっと國将なら格好いいのだろうな…と。

想像してみたら、先程まで痛かった心臓が、今度は馬鹿みたいに忙しなく脈を打ち出して熱くなった。








(変だよね…)


女々しくなる自分に戸惑う善。

まるでそれは、恋する乙女のようで…。

窓に映る自身を省みては、現実を突き付けられ嘆息する。


そうなると行き着くのが、姉への嫉妬になるわけで。いや…正確には女性への、と言った方が無難かもしれないが。



自分には無いもの、絶対に得られないもの。

例えば姉が迷いもなく國将に抱き付く行為でさえ…


善にとってはまず真似など出来ないのだという現実が、途方もなく虚しかった。








(今日も来なかったし、な…)


顔を合わせづらいクセに、来てくれないと寂しいだなんて、矛盾してるけれど。

なんとか偽る事は出来ても、想いを完全に打ち消す事だけは、不可能だったから。


善にさえ、どうすることも出来やしない。






(今頃は…)


バイト中なのだろうか?

なら、彼のシフトを全て把握しているらしい姉は…

もしかしたら、そこにいるのかもしれない。





(僕も見てみたいな…)


彼の働く姿を。

家でご飯を美味しそうに食べてる時も、食後に遠慮しながら、わざわざ換気扇の下に移動して煙草を吸っている時だって。


何をしていても絵になってしまう國将だから。






(見るだけなら…)


せめてそのくらいなら、こんな自分にも許されるのかな?と。なんだかふわふわした気持ちに駆られた少年は、意を決して立ち上がる。


それから上着とマフラー、自宅の鍵だけをいそいそと手にして。





(冷たい…)


ちょっとした冒険にドキドキと火照る頬を、夜風で冷ましながら…。

自宅から歩いて10分足らずのコンビニへと。

健気にも足を向けるのだった。

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