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漸く決心も固まり…後は機会を見計らって───…

と、意気込んだはいいものの。


國将はあれから、善に会えない日々を送っていた。




それはバイトが人手不足だったとか、善にかまけて学生の本文を疎かにしていたツケだったりと。

凡そ私事ではあったが…。


ここ最近の善の様子も、気にかかる所があったため。國将としては何処か焦りにも似た衝動に駆られていた。



そんな時でも、招かざる客だけは勝手に来るようで…。







「あれれ~コレが噂の人ですか?なんかイメージと違うなぁ…」


「…違う、死んでも違う。」


「やだぁ~國将ったら、陰で私の噂なんかしてたのね!」


…面倒な事ほど、ばったりと出会すものなのだと知った。






夜のバイト上がりを狙って、店の裏口に潜んでいたのが───…勿論ストーカー清子で。

清子が当たり前のように腕に抱き付いて来たのを、

半ば引き摺って歩道に出た所で…今度は後輩に遭遇したわけだが。


はっきり言ってこの組み合わせは、非常に面倒臭い気がする…。






「いや~やっと不和サンの想いが通じたんスね~高校生にしては、かなり老けてっけども。」


「そうなの~國将ったら私に会いたくて毎日毎日、足しげく家に通っててね…」


「違うっつってんだろが…」


…この通り、会話が成り立たないからうんざりするのだ。






「ですよね~どう見ても十代には見えねっスもんね。」


「あらあら、私の心は今も昔もピッチピチの十代よ~!」


なんだか相手するのもバカバカしいので。

國将はふたりを放置し、自宅の方へと歩き出す。

それに気付いた後輩と清子は、当たり前のように後をついて来たので。


思わず國将の口から、溜め息が漏れた。






「じゃあ、この女はなんなんスか~?」


えらく馴れ馴れしいですけどと。

後輩は初対面である清子の前で、堂々と質問してくる。


といっても、初っぱなから失礼極まりない発言しかしてないのだが…





「あ?そんなの決まってんだろ、」


ストーカーだよと、國将も清子に構わず直球で以て答えた。それに対し、ヤダァ~と照れてみせる清子。






「うわ、マジっスか~相変わらずそっちでは苦労してんスねぇ…。」


普通なら、ストーカー被害を打ち明けられたら多少なり驚く場面だろうが…。

免疫が既にある後輩は驚く様子もなく、いつもの事として労うような言葉を吐く。


それからチラリと清子を見やると…。

清子はまた何かを勘違いしたように、キャンキャンと騒ぎ始めた。







「國将のお友達もイケメンさんね~私、清子っていうの!いつもうちの國将がお世話になってます!」


ストーカー炸裂とばかりに、深々頭を下げながら意味不明な事をいい始めた清子に。




「あ、ご丁寧に…オレは不和サンの中坊ん頃からの後輩で───…」


「応えんでいいっての!」


勢いに釣られ、何故か自己紹介しようとする後輩。

すかさず國将がツッコミを入れた。が…それすらもストーカーには伝わらないようで。





「もうっ國将ったらヤキモチ妬いてるぅ~!心配しなくても私は國将一筋よ~!」


愛してる!と絶叫するストーカーに…國将はその時点で以て、清子と会話する意思を放棄した。






「…相当イカれてないスか?あの女…」


「まあな…」


これにはお馬鹿な後輩といえど、理解したようで。

國将とふたり、冷たい眼差しで清子を哀れむ。





「ああん、どうしましょ!後輩君からも熱い視線が…修羅場ね?コレは修羅場なのね~!」


私どうしたらいいの~と悶えるストーカーを尻目に、





「行きますか…」


「だな…」


國将と後輩は、静かにその場を離れた。








「なんで放置してんスか?」


当然のように問われ、國将は宙を一度仰ぎ見て。





の…姉貴なんだよ。」


そう答えれば後輩は察して、ああ…と声を上げる。





「あんなのの妹とか、大丈夫なんスか?」


…実際は弟なんだが。

心配になってきたと告げる後輩に、國将はただ苦笑うしかない。





「姉貴はあんなだが…」


アイツはキスもまだだったぐらいに、純真無垢で。

しかも料理がメチャクチャ美味く、照れてすぐ赤くなると凄く可愛いんだと────…語ってしまった後で、我に返る國将。


ちょっと喋り過ぎたかなと、隣りを行く後輩に視線を向ければ…




「ノロケまくりじゃないスか、なんかチョー新鮮!」


「…ノロケじゃねぇだろ。」


「いやいや、充分ベタ惚れっしょソレ~!」


不和サンたら~と後輩に肘でつつかれ、國将は腑に落ちないといった表情を浮かべる。

まあ、ベタ惚れなのはもう認めてもいいのだが…。






「てかストーカーの妹って聞いたら、めっちゃ会ってみたくなったっス~オレ。」


清子という血縁者から、果たしてそのようなレア物が存在するのかと…。

後輩は好奇心たっぷりに目を輝かせてくるのだが。





「お前に合わせると、秒で手ぇ出されそうだかんな。」


遊び人な後輩に、善を合わせるのは危険だとして。

國将は無理だなと断言する。

言われて後輩は、こないだは考えておくと言ったクセに~と。隣りで不満の声を上げた。






「オレだってね、不和サンがそこまで熱上げてっから、気になるんスよ?」


純粋に國将という人間が選んだ人がどのようなものなのかと…他意はないのにと告げる後輩。

その目は真剣で、國将を横目でじっと捉えてくる。






「だからね、心配しなくても不和サンのモンに手なんか出しませんて…………たぶん。」


「お前やっぱ死ね。」


「やっだなぁ~冗談スよ冗談~!」


不和サンてばマジなんだから!と…何処か清子を相手してるような気に晒されて。

國将はどっと溜め息を吐き出し、頭を抱えた。





冬始めの夜空の下、そんな不毛な会話をしながら。

ふたりは暗闇の中へと消えていく。


その少し前、清子と國将達が遣り取りしていた様子を。思い詰めた表情で見ていた人影があったのだけれど…。



それについても國将は、何ひとつ気付く事はなかった。

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