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「あ───…そりゃあヒデェっすわ、不和サン。」


「だよな…。」



深夜の勤務中、古くからの後輩が國将のバイト先であるコンビニまで、暇潰しにとやって来て。

夜中に客など殆どいなかったのを良いことに、ダラダラとくだらない話をしていた。






「不和サンがフライングとはねぇ…」


あり得ねぇッスと、軽い口調で告げる後輩。

金髪にピアス、派手なスウェットと如何にも不良です!と言わんばかりの出で立ちである。






「不和サンて、見た目遊んでそうで意外と硬派なとこ、あるじゃないスか~。」


それこそ毎日のように、付き合えだの抱いてだの…

言い寄る女はごまんといたのに。

遊びで手を出してる所は、一度も見たことがないと…後輩は言う。






「そんな真面目でも無かったけどな…。」


「まあ、不良してましたもんねぇ…昔は。」


今でこそ、髪も黒に戻し大学なんぞに通ってはいたが…。高校時代は喧嘩したりなんだりと、それなりに無茶苦茶やっていた國将である。


そんな事…自分を兄のように慕うあの少年には、おいそれと話せやしないが…。







「てか、相手いくつッスか?」


痛いところを突いてきた後輩に、國将は一瞬言葉を濁したが…。






「…………高1。」


「あちゃ~…そりゃマジ犯罪ッスね…」


言われなくても、解ってると反論しようにも…図星だから言い返さない國将。

後輩達からは硬派で男気溢れる性格を買われ、慕われていたというのに。






「まあ~脈有りなんでしょ、そのコ?」


不和サンなら押し倒しちゃえばイケんじゃね?と、

際どい事を後輩は簡単に言うが…


それは多分、を國将が打ち明けていないのだから…仕方ない。





「相手、高校生っつったろよ…」


長い付き合いだったから、コイツに話してみたのだが…。まんまチャラい奴だったなと、國将に多少の後悔が過る。





「女なんて不和サンの色気でイチコロですって!」


「………女ならな…」


そこまで悩んだりもしないのだけど。






「え?なんか言いました?」


「なんでもねぇよ。」


別に隠すつもりはないんだが…

この後輩にソレをバラしてしまうと、後々厄介な気もしたので。


やはり肝心な事は話さない國将だった。






「お前は悩みなんざなさそうで良いよなぁ。」


「あっれ~なんからしくないなぁ、ホント。」


弱味など今まで見せたことのない國将に、目を丸くする後輩は。珍しいとばかりに、國将の顔をまじまじと凝視してくる。






「不和サン、マジ惚れてんすねぇ~そのコに。」


なんだか羨ましいなと後輩は嬉しげに笑う。





「お前も本命を見つけりゃいいだろうが。」


「いや~オレまだまだ若いんで、無理ッスね~!」


若気の至りとか、年なんて1つしか変わらないクセに…。相変わらずな後輩に、國将はしょうがないなと苦笑を漏らした。







「さあ、そろそろ邪魔だから帰れ。」


会話が一区切りついた所で、店内に客が入って来て。用済みだと、後輩を手で促す。






「先輩、オレおでん食いたいな~!」


「自分で買ってけ。」


チェッと唇を尖らせながらも、後輩は入口へとダラダラ歩き出す。





「おい、」


その背に、國将は声を掛けて。

後輩はハイ~?と間延びした返事で振り返る。





「おっと。」


前触れなく放り投げた缶コーヒーを、後輩は見事にキャッチして。




「ありがとな。」


話を聞いてくれて助かったと、國将は悪戯に笑う。

後輩はまたも目を見開くが…





「不和サンなら、大丈夫とは思いますけど…」


頑張って下さいよ~と、相変わらずな口調でエールを送る。目を合わせれば、言葉なくしてお互いニヤリと笑みを交わして。





「そのコ紹介してくれんの待ってますんで。」


「……気が向いたらな。」


もしそうなったら、きっと驚くだろうけど。

約束ッスよ~と言い残して、後輩は帰って行った。






(はぁ…ホントらしくないわな…)


後輩が言う通り、今回に限っては國将もなかなかに不器用というか…。


相手が年下だとか、そもそもそれ以前の問題もあってか…色々と選択ミスしてる部分も重なり。

相手の気持ちなんて、今まで深く考えた事も無かったクセに。今はそれが思うように動けない、一番の理由になっている気がする。



こう言ってはなんだが、それこそ今までは相手から好意を寄せてくる場合が多かったので。

後は自分の気持ち次第で、どうにでもなるような恋愛ばかりしてきた國将だったけれど…。





(いちいち気になんだよなぁ…)


例えば、自分の言葉や行動ですぐ赤くなったり…かと思えば泣きそうになったり。

予想以上に純粋で真っ白な所とか…慕われてると思ってた矢先に、突然避けられたりもして…。





(相当だよな、コレは…)


自覚は随分前にあったが、これは再確認。

ウジウジと悩んでばかりで行動で示さないなんて、

それこそらしくないと思うから。





(手を出したケジメは、つけねぇと…)


それでどう転ぶかなんて、國将にも判らなかったが。何もせずに終わる気もさらさらないので…





(アイツが振り向いてくれるまで…)


追いかけよう、まだ望みが少しでもあるなら…と。

國将は内で自らを鼓舞するように。

そう決意するのだった。

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