13
「あ───…そりゃあヒデェっすわ、不和サン。」
「だよな…。」
深夜の勤務中、古くからの後輩が國将のバイト先であるコンビニまで、暇潰しにとやって来て。
夜中に客など殆どいなかったのを良いことに、ダラダラとくだらない話をしていた。
「不和サンがフライングとはねぇ…」
あり得ねぇッスと、軽い口調で告げる後輩。
金髪にピアス、派手なスウェットと如何にも不良です!と言わんばかりの出で立ちである。
「不和サンて、見た目遊んでそうで意外と硬派なとこ、あるじゃないスか~。」
それこそ毎日のように、付き合えだの抱いてだの…
言い寄る女はごまんといたのに。
遊びで手を出してる所は、一度も見たことがないと…後輩は言う。
「そんな真面目でも無かったけどな…。」
「まあ、不良してましたもんねぇ…昔は。」
今でこそ、髪も黒に戻し大学なんぞに通ってはいたが…。高校時代は喧嘩したりなんだりと、それなりに無茶苦茶やっていた國将である。
そんな事…自分を兄のように慕うあの少年には、おいそれと話せやしないが…。
「てか、相手いくつッスか?」
痛いところを突いてきた後輩に、國将は一瞬言葉を濁したが…。
「…………高1。」
「あちゃ~…そりゃマジ犯罪ッスね…」
言われなくても、解ってると反論しようにも…図星だから言い返さない國将。
後輩達からは硬派で男気溢れる性格を買われ、慕われていたというのに。
「まあ~脈有りなんでしょ、そのコ?」
不和サンなら押し倒しちゃえばイケんじゃね?と、
際どい事を後輩は簡単に言うが…
それは多分、肝心な事を國将が打ち明けていないのだから…仕方ない。
「相手、高校生っつったろよ…」
長い付き合いだったから、コイツに話してみたのだが…。まんまチャラい奴だったなと、國将に多少の後悔が過る。
「女なんて不和サンの色気でイチコロですって!」
「………女ならな…」
そこまで悩んだりもしないのだけど。
「え?なんか言いました?」
「なんでもねぇよ。」
別に隠すつもりはないんだが…
この後輩にソレをバラしてしまうと、後々厄介な気もしたので。
やはり肝心な事は話さない國将だった。
「お前は悩みなんざなさそうで良いよなぁ。」
「あっれ~なんからしくないなぁ、ホント。」
弱味など今まで見せたことのない國将に、目を丸くする後輩は。珍しいとばかりに、國将の顔をまじまじと凝視してくる。
「不和サン、マジ惚れてんすねぇ~そのコに。」
なんだか羨ましいなと後輩は嬉しげに笑う。
「お前も本命を見つけりゃいいだろうが。」
「いや~オレまだまだ若いんで、無理ッスね~!」
若気の至りとか、年なんて1つしか変わらないクセに…。相変わらずな後輩に、國将はしょうがないなと苦笑を漏らした。
「さあ、そろそろ邪魔だから帰れ。」
会話が一区切りついた所で、店内に客が入って来て。用済みだと、後輩を手で促す。
「先輩、オレおでん食いたいな~!」
「自分で買ってけ。」
チェッと唇を尖らせながらも、後輩は入口へとダラダラ歩き出す。
「おい、」
その背に、國将は声を掛けて。
後輩はハイ~?と間延びした返事で振り返る。
「おっと。」
前触れなく放り投げた缶コーヒーを、後輩は見事にキャッチして。
「ありがとな。」
話を聞いてくれて助かったと、國将は悪戯に笑う。
後輩はまたも目を見開くが…
「不和サンなら、大丈夫とは思いますけど…」
頑張って下さいよ~と、相変わらずな口調でエールを送る。目を合わせれば、言葉なくしてお互いニヤリと笑みを交わして。
「そのコ紹介してくれんの待ってますんで。」
「……気が向いたらな。」
もしそうなったら、きっと驚くだろうけど。
約束ッスよ~と言い残して、後輩は帰って行った。
(はぁ…ホントらしくないわな…)
後輩が言う通り、今回に限っては國将もなかなかに不器用というか…。
相手が年下だとか、そもそもそれ以前の問題もあってか…色々と選択ミスしてる部分も重なり。
相手の気持ちなんて、今まで深く考えた事も無かったクセに。今はそれが思うように動けない、一番の理由になっている気がする。
こう言ってはなんだが、それこそ今までは相手から好意を寄せてくる場合が多かったので。
後は自分の気持ち次第で、どうにでもなるような恋愛ばかりしてきた國将だったけれど…。
(いちいち気になんだよなぁ…)
例えば、自分の言葉や行動ですぐ赤くなったり…かと思えば泣きそうになったり。
予想以上に純粋で真っ白な所とか…慕われてると思ってた矢先に、突然避けられたりもして…。
(相当だよな、コレは…)
自覚は随分前にあったが、これは再確認。
ウジウジと悩んでばかりで行動で示さないなんて、
それこそらしくないと思うから。
(手を出したケジメは、つけねぇと…)
それでどう転ぶかなんて、國将にも判らなかったが。何もせずに終わる気もさらさらないので…
(アイツが振り向いてくれるまで…)
追いかけよう、まだ望みが少しでもあるなら…と。
國将は内で自らを鼓舞するように。
そう決意するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます