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「善~!聞いて聞いて~、そこで國将に会ったの!」


程なくして帰宅した姉が、ただいまもなしにリビングへと飛び込む。




「さっきまで、國将さん来てたから…」


先程目にした光景に、胸を痛める少年は。

大好きな姉の前で健気にも笑ってみせる。





「ああん…どうせなら泊まってってくれればいいのに…國将ったら、すぐ遠慮しちゃうんだから~。」


遊んでそうなのに意外と硬派よね、と同意を求められたが…それには返事出来なかった。







國将が出て行ってすぐ、急いで残り物のおかずをタッパーに詰めた善。

最近は國将を勘定に入れてるから…買い出しの材料も二倍に増やしたし。わざと多く作るようにしていた。



それは彼が、美味い美味いと誉めてくれたのが切っ掛けだったけれど…。

今では幼気な少年のささやかな下心…の方が強いのかもしれない。



最近は色々と複雑な状況にあったから。

本音は一緒にいたくても、姉に遠慮してた為、なかなか話も出来なくて。

そんな自分の態度に、國将が苛立っているのも判ったから…。



今日、少しだけ…仲直りとは違うけれど。

自然に接する事が叶って、安心していたのだ。





だから、すぐ帰ってしまう國将に後ろ髪を引かれて。

たまに厭らしい顔をする彼には困ってしまうけど…。

もう少しだけ、一緒にいるための言い訳が欲しくて。


善は作り置きしていたそれを手に、急いで國将を追い掛けた。






國将は足が長いから、歩く速さも並みじゃない。

早く追い掛けなきゃ…そう、自身を駆り立てる感情さえ儘ならないままに。


善は必死に暗がりを走り────…

思いの外早くに、國将の背に遭遇する。



同時に、彼に抱き付く姉の姿にも…。







まさか姉が、あんなにも積極的な人間だったなんて思いも寄らなかった。清子はどちらかというと、地味な学生時代を送ってきた女性だったから。


大学へ通い始めた頃から、それなりにお洒落を楽しむようになり…数はそれほど多くはなかったが、男性経験も一応あったようだ。


だからといって、清子が男にだらしない態度を取ったことは一度もなく…。そんな姉を大人なのだと尊敬すらしてた善。



それ故に、國将を前にした時の姉の変わりようが、

今でも信じられないでいた。







善の前だろうが、お構い無しに國将へスキンシップを計る清子。好きだの抱いてだの、発言だって危なっかしい。


そんな姉に対し、國将は『ストーカー』だと鬱陶しがっていたが…実際の所、それ以上の邪険な扱いは見られなかった。







(苦しい…)


姉の意外過ぎる一面とか…それが原因じゃない事は、少年には解っていた。

それでも、すぐに答えが出せないのは。


この胸を痛めてる理由が、國将にあるからだろう。




國将はきっと女性からモテてきたのだろう。

あれだけ格好良くって、性格だって男らしく素敵だから…姉が好きだと騒ぐ気持ちが、善には嫌と言うほど理解出来たのだ。








(國将さんは、)


姉を…どう、思っているんだろう?

嫌がってるように見えるけど…先程だって抱き付かれても、それほど拒絶してる風には思えなかったし…。






(僕は…)


こんな気持ちは初めてで。

それがどんな意味のものかさえ、定かではないから。迷うばかりで、どうしたら良いのかが…善には全く以て見当も付かない。



國将の態度だってそう。

あり得ないって判ってるけど…あんな事をされたら。期待してしまっても、おかしくないのではなかろうか…。






(そんなわけ、ない…)


きっとあれはスキンシップの延長。

それ以上なんて望んではいけないのだから。







「善のおかげで、なんだか國将ともイイ感じになってきたし…」


これからも応援してよねって、大好きな姉が言うものだから。





「そう…だね…」


頑張ってね、なんて。本当は思ってもいないクセに。

善は出鱈目な笑顔を浮かべ、逃げるようにして自室へと戻った。


目尻に溜まる、抑えきれない感情を…吐き出す為に。

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