12
「善~!聞いて聞いて~、そこで國将に会ったの!」
程なくして帰宅した姉が、ただいまもなしにリビングへと飛び込む。
「さっきまで、國将さん来てたから…」
先程目にした光景に、胸を痛める少年は。
大好きな姉の前で健気にも笑ってみせる。
「ああん…どうせなら泊まってってくれればいいのに…國将ったら、すぐ遠慮しちゃうんだから~。」
遊んでそうなのに意外と硬派よね、と同意を求められたが…それには返事出来なかった。
國将が出て行ってすぐ、急いで残り物のおかずをタッパーに詰めた善。
最近は國将を勘定に入れてるから…買い出しの材料も二倍に増やしたし。わざと多く作るようにしていた。
それは彼が、美味い美味いと誉めてくれたのが切っ掛けだったけれど…。
今では幼気な少年のささやかな下心…の方が強いのかもしれない。
最近は色々と複雑な状況にあったから。
本音は一緒にいたくても、姉に遠慮してた為、なかなか話も出来なくて。
そんな自分の態度に、國将が苛立っているのも判ったから…。
今日、少しだけ…仲直りとは違うけれど。
自然に接する事が叶って、安心していたのだ。
だから、すぐ帰ってしまう國将に後ろ髪を引かれて。
たまに厭らしい顔をする彼には困ってしまうけど…。
もう少しだけ、一緒にいるための言い訳が欲しくて。
善は作り置きしていたそれを手に、急いで國将を追い掛けた。
國将は足が長いから、歩く速さも並みじゃない。
早く追い掛けなきゃ…そう、自身を駆り立てる感情さえ儘ならないままに。
善は必死に暗がりを走り────…
思いの外早くに、國将の背に遭遇する。
同時に、彼に抱き付く姉の姿にも…。
まさか姉が、あんなにも積極的な人間だったなんて思いも寄らなかった。清子はどちらかというと、地味な学生時代を送ってきた女性だったから。
大学へ通い始めた頃から、それなりにお洒落を楽しむようになり…数はそれほど多くはなかったが、男性経験も一応あったようだ。
だからといって、清子が男にだらしない態度を取ったことは一度もなく…。そんな姉を大人なのだと尊敬すらしてた善。
それ故に、國将を前にした時の姉の変わりようが、
今でも信じられないでいた。
善の前だろうが、お構い無しに國将へスキンシップを計る清子。好きだの抱いてだの、発言だって危なっかしい。
そんな姉に対し、國将は『ストーカー』だと鬱陶しがっていたが…実際の所、それ以上の邪険な扱いは見られなかった。
(苦しい…)
姉の意外過ぎる一面とか…それが原因じゃない事は、少年には解っていた。
それでも、すぐに答えが出せないのは。
この胸を痛めてる理由が、國将にあるからだろう。
國将はきっと女性からモテてきたのだろう。
あれだけ格好良くって、性格だって男らしく素敵だから…姉が好きだと騒ぐ気持ちが、善には嫌と言うほど理解出来たのだ。
(國将さんは、)
姉を…どう、思っているんだろう?
嫌がってるように見えるけど…先程だって抱き付かれても、それほど拒絶してる風には思えなかったし…。
(僕は…)
こんな気持ちは初めてで。
それがどんな意味のものかさえ、定かではないから。迷うばかりで、どうしたら良いのかが…善には全く以て見当も付かない。
國将の態度だってそう。
あり得ないって判ってるけど…あんな事をされたら。期待してしまっても、おかしくないのではなかろうか…。
(そんなわけ、ない…)
きっとあれはスキンシップの延長。
それ以上なんて望んではいけないのだから。
「善のおかげで、なんだか國将ともイイ感じになってきたし…」
これからも応援してよねって、大好きな姉が言うものだから。
「そう…だね…」
頑張ってね、なんて。本当は思ってもいないクセに。
善は出鱈目な笑顔を浮かべ、逃げるようにして自室へと戻った。
目尻に溜まる、抑えきれない感情を…吐き出す為に。
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