5
────紳士な振る舞いは、雄の理性を最優先に、
一瞬にして崩れ去るものだ。
「善じゃねーか!」
「あ…國将さん!」
珍しく週末にバイトが休みだった國将は、高校からの仲間と共にバイクでツーリングに出かけていた。
その帰り道、偶然にも善と出会う。
「買い物帰りか?」
スーパーの袋を手にした善に問えば、うんと無邪気な返事をされ。次に國将は、顎で後部座席を示してくる。
対する善はきょとんとして首を傾げたが。
「送ってやっから、乗んな?」
無自覚にも國将が、男前な笑みを湛えながらヘルメットを渡してくるから。善は真っ赤になりながらも、おずおずとその申し出を受け入れた。
「しっかり掴まってろよ。」
何処に掴まればいいのか判らず、おろおろしだす善に。苦笑して國将が少年の手を引く。そのまま自身の腰へと導いて。なんだか恥ずかしそうな善に、いいから掴まれと促せば遠慮がちにも抱き付く形を取った。
それに気を良くした國将はニヤリと笑い、軽快にバイクを発進させた。
「今日の飯は何にするんだ?」
結局、そのまま善の家に転がり込んだ國将。
勿論それは善にせがまれてのことなのだけど。
満更でもない國将は、遠慮する善から強引に奪ったスーパーの袋をテーブルに置きながら少年へと声を掛けた。見やれば慣れたようエプロンを身に付ける善に、つい顔がにやける。
「鶏もも肉が安かったから、照り焼きか唐揚げにしようと思って。」
後付け合わせのサラダに、きんぴらごぼう。
それから豆腐の味噌汁と献立を教えてくれる善。
「なんだ、俺の好物ばっかだなぁ。」
と然り気無く告げたら…
「あっ…そう、だったねっ…」
なんて答えて。善は顔を真っ赤にした。
もしかしなくても、俺が来ることを想定してたんじゃないかと妙な期待が膨らむ。
「すぐ用意するから、國将さんは座ってていーよ!」
バレバレな態度の善に台所を追いやられ、國将は仕方なくリビングのソファへと陣取る。
その間もずっとカウンターキッチンで料理する善の姿を眺めていたのだが…。視線を意識する善は耳の先まで赤くして。國将はまたもや良からぬ事を思い浮かべ、笑いを堪えるのだった。
「姉ちゃんは仕事か?」
いない方が自分的には好都合だったから、聞いたのだけど。姉の話題を國将が振ると、少しだけ顔を曇らせてしまった善。
「姉さんなら、確か遅くなるって…あ…」
言葉を濁しつつ答えていた善は、カウンターに置いた携帯電話が赤く点滅しているのに気が付いて。
濡れた手をエプロンで拭くと、カチカチと操作し始める。
「メール、姉さんからだ…今日は帰れなくなるかもって…」
姉からのメールを確認した善は、更に複雑な表情を浮かべるものの。その心情は計り知れない。
「そっか、なら良かった。」
「えっ…?」
何の気なしに國将が返すと、今度は面食らったよう目を瞬かせるけれど。
「なんでもねぇよ。それより腹減ったな~。」
「あ…うん、すぐ作るねっ!」
國将がうやむやにしたため、善は慌てて調理を再開した。
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