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「コレも美味い!お前はホント料理上手だな~。」


温かな料理を前に、國将が感嘆するのは───…

既に初めてではなかった。






そう…数週間前、ストーカー女を成り行きで助けた後。出来た弟からお礼にと、ご飯を作って貰った國将。

年頃男子が用意するなんて言ったら、即席ラーメンが良いとこだと高を括っていたのだけど…。


出された料理は正に理想の家庭料理といったもので。少年は残り物だと、申し訳なさそうに苦笑していたが…。


独り暮らしの身としては願ってもないご馳走だった。







その時、善と色々な話をして。彼の身の上を知った國将。


何でも両親は、仕事の都合で数年前から海外へ赴任してるらしく…本来なら未成年である善も一緒に、行かなくてはならなかったのだという。


年頃の少年は、いきなり海外と言われ戸惑ったそうで。本音は行きたくなかったのだが…性格故か、素直に嫌だとは言い出せなくて。


そんな心情を察し、日本に残る道を作ってくれたのが────…まさかのストーカー女、姉の清子だった。







『姉さんはすっごく優しいんですよ!僕の為に親を説得してくれたし…』


姉を想い微笑む善は、とても幸せそうで。

あの女がそんな奴だったのは棚ぼたな話だったが…。


寧ろ自分を救ってくれた姉の為に、遊びたい盛りの少年が。健気にも家事だなんだと、頑張ってる姿の方に感銘を受けた國将は。

偉く少年を気に入り、対する少年も姉の恩人に兄のような親しみを抱いた事もあって…。


意気投合した二人は、奇妙な出会いながらも。

縁を絶やす事なく、こうして尚も交流を続けていた。






「ああっ…國将がとうとう私のものに!」


…色々と勘違いしている清子には、ちょっと居心地悪かったが。






「國将さん、お代わりありますよ。」


「ああ、悪ィな。」


さっきから國将にキャーキャー言ってるだけの姉に対し、國将を手料理でもてなす弟。


今時珍しいくらい、健気な奴だなと。

せっせとご飯をよそう背中を見つめ、國将は無意識に顔を綻ばせた。


こうした光景も、もう既に数え切れない程になっていたが。







『國将さんて大学生だったんですね。』


初めて話した時、驚いてみせた少年。

國将が大人びていたから、姉の会社関係の人間か何かだと思ってたらしい。


更には姉の恋人ではないのか…とも。

これについては、即答で否定した國将である。

大好きな姉の事だからか、善は國将の反応に微妙な表情を浮かべてしまったが…。







「たかが一度の人助けで毎日すまねぇな。」


善から茶碗を受け取る國将は、社交辞令でそう口にしたが。善はいえいえと頭を振って答える。





「寧ろ助かります!姉さんも仕事で忙しいから、殆ど一人での晩御飯だったし。ご飯も余らなくて済むから…」


その姉も國将が通うようになってからは、何故か定時帰宅が多くなっていたけれど。

もしかしたら、今まで寂しい思いをしてたのかもと國将は悟って。


なら遠慮しない方が良いかもな、と自分に都合良くも解釈しておいた。






「お…そろそろバイト行かねぇとな…」


楽しい時間はあっという間で、國将は名残惜しくも席を立つ。同時にコンビニまで見送りに行くと清子が騒ぎ出したが…





「女に見送りなんざさせられっかよ。」


寧ろお前は来なくていいとは、善の手前飲み込んだが。國将は手を振って、田代木家を後にした。








「國将さん!」


そんな彼を、善がバタバタと追い掛けてきて。





「これ、持ってって下さい!」


頬を紅潮させ、ハイと手渡された物は温もりの残るタッパーの入った包み。國将が目で問えば、煮物だと答える。





「沢山作ったから…どうぞ。」


きっと急いで詰めて持ってきたのだろう、冬前にも関わらず善の額には汗が滲んでおり。

肩で息をする少年に、國将は擽ったいような何かを覚える。






「ありがとな。」


「あ…」


ありがたく受けとるついでに、くしゃりと頭を撫でてやれば。善の顔が見る間に真っ赤に染まっていく。






(なんだコレ、すげぇ可愛いじゃねーか…)


特別小さい訳でもなく、本当にごく普通の一般的な高校生でしかないのだけれど。

それが善だと、妙に可愛く見えてしまうから不思議。


本来なら、野郎が頬染めるだなんて気持ち悪いだけなのに…コイツだと違和感ねぇのなと、國将は心中で笑った。






「寒ィし、夜は危ねぇから。」


妙な空気感に、暫くその場に留まってしまったが…國将は急いでバイトに行かなくてはならない。

善も本音はまだ、國将と一緒に過ごしたいと思ってはいたけれど。





「じゃあ…ね、國将さん…」


その欲求は健気にも飲み込むのだった。





「また!来て下さいね!」


去り際、もげそうなくらい手を振る善の姿に。





(いいな…なんか…)


返事をしながら、少しだけ芽生えた…下心。

昔から察しのいい國将には、それが何なのかが判ってしまったが。今はまだ早いよなと…大人ぶって。

一旦は、胸の奥底に仕舞っておいた。



それほど忍耐強いわけでも、ないのだけれど…。

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